現存するスーパースポーツとまったく次元の違う存在に
開発期間5年以上。もちろん、小さな所帯ゆえのスパンとも言えるが、そこに、“チーフデザイナー”オラチオの、新型車開発への並々ならぬ思い入れがあったこともまた、事実だろう。ゾンダを上回るパフォーマンスはもちろんのこと、さらなる機能美と芸術性の追求が、現存するスーパースポーツたちとはまったく次元の違う存在=ウアイラを生んだ。もっとも、それはゾンダという極めて素性のいいマシンが存在したからこそ、でもある。
ウアイラにゾンダと共通するパーツはほとんどない。サスペンション構造やミッションなど、ゾンダRがウアイラの下敷き=開発モデルになった形跡こそ色濃く見受けられるが、ボディデザインはもちろん、特徴的なガルウィングドア、カーボンチタンのモノコックボディ、そしてパワートレインに至るまで、すべてはウアイラ専用に刷新されている。
心臓部には、ゾンダ用M120系メルセデスAMG製の自然吸気V12に代わって、同じくAMG製のM158系6リッターV12ツインターボエンジンを搭載。もちろん、パガーニ向けの専用セッティング&チューニング仕様である。組み合わされるミッションは、ゾンダRと同じXトラック社製2ペダルMTの進化版とした。
流行のデュアルクラッチシステムの搭載も一時は検討されたようだが、強大なトルクを受け止めるためにはデュアルミッションにするだけで成人男性一人分の重量をリアオーバーハングに増やさなければならなくなり、結果、その時点では、得られるパフォーマンスの向上と相殺される、という結論に至ったという。
カーボンチタンのモノコック、クロームモリブデンのサブフレーム、ゴールドカラーの鍛造アルミニウムアームなど、高価なマテリアルを惜しみなく使い、使用されるチタン製ビスには全て自社ロゴが入るというこだわりようだ。数kgの塊から掘り出されたアルミニウムパーツの数々と、オートクレーブで成型したCFRP(炭素繊維強化樹脂)、そして最高級レザーハイドの組み合わせは、全体に貫かれた極めて芸術的なレトロモダン・デザインと相まって、スーパースポーツカーであるにも関わらず、居心地のいい宝飾美術館に潜り込んだような気分に浸れてしまう。
この空気感を知ってしまったら、最早、フツウの機能美なんてものの集合体には、ちゃんちゃらおかしくて乗ってられなくなるだろう。少なくとも、革とアルミとカーボンの組み合わせだけを強調するようなブランドのいわゆる機能的なコクピットには、マテリアル紹介のフレーズが同じであるぶんだけ、嫌悪感を抱いてしまうかもしれない。ある意味、このクルマに触ってしまったことは、不幸だ。
5、60年代の飛行機からヒントを得たというコクピットに腰を落ち着けると、一瞬、どうやって走り出していいものか、と悩んでしまう。ステアリングホイールがあり、パドルシフトがあり、ペダルがふたつある、にも関わらず……。この非日常感、恐る恐る触らなければいけない緊張感こそ、スーパーカーの証ではないか!