たとえば、昭和後期を代表する刑事ドラマのひとつ『あぶない刑事』では “アクション&ちょっと不良っぽい“ のスタイルに、視聴者は憧れを抱き、ファンとして視聴する気持ちが強かった。
しかし、1997年に放送を開始した『踊る大捜査線』では、昭和的なハデさに代わって“組織論”や“現場論”といった部分が掘り下げられるようになり、視聴者は “憧れる視聴”から“考える視聴” へ変化を遂げることになります。
『踊る大捜査線』の登場で 数々の“考える”刑事ドラマが牽引され、視聴者は さらに考えを深め 主張を始めます。今、視聴者はどんなことを考え刑事ドラマに接しているのでしょうか。具体的な例を挙げながら見てみましょう。
1: 働く女性を考える
刑事ドラマにおいても、女性のリーダーが登場し その活躍が描かれるようになりました。同時に 働く女性はヒステリックという公式からの脱却が進みます。
その代表が、威風堂々『BOSS』の大澤絵里子(天海祐希)です。都会的で洗練された 華のある刑事でありながら、覚悟の仕方、一矢の報い方をわきまえています。視聴者は聡明なリーダーに 本物の「カッコよさ」を見出しているようです。
そして、時に感情的ですが、 剥き出しの不器用な正義感を メンバーが支える 『ストロベリーナイト』 の姫川玲子(竹内結子)が登場します。多発する猟奇的な事件、男社会での苦悩(「お嬢ちゃん」と呼ばれる)、過去の傷、家族との埋められない溝など、環境は 実に過酷です。それでも、決意の証・エルメス(鞄)を愛用し、懸命に 自らを奮い立たせ事件に立ち向かう 姫川刑事のたくましさに泣けることもありました。働く厳しさを知る視聴者は その痛みを共有したのかもしれません。
2: 運命を考える
特殊能力を都合のいい手段ではなく、摩擦、葛藤を生むものとして 丁寧に描くのがドラマです。現実離れした内容ですが、ほかの刑事ドラマ以上に、生きることの難しさや複雑さを 考えることになるのでしょう。
『BORDER』の 石川安吾(小栗旬) は、脳内に残った弾丸により、死者との接触が可能となります。それは 埋もれかけた真実を知る手段となりました。しかし、真実をいかに表出させるかで 苦悩し続け、表出させられない最後の事件では、苦悩の末、苦々しい幕引きを選びます。
センセーショナルな結末に視聴者の意見はかなり白熱しました。それは積極的に考える視聴者の存在を 顕著にし、刑事ドラマを 飽和状態と考えていた視聴者に衝撃を 与えたとも言えるでしょう。迷い悩む刑事像は、新しいドラマのスタイルを見せたのです。
『SPEC』の 当麻紗綾(戸田恵梨香)はいわゆる天才ですが 優等生ではありません。 ファッションに興味なし、極端な偏食、組織に迎合しない言葉の連発、しかし独創的なアイデアで事件を解決に導きます。
スペックホルダーとしての運命を 背負いながら、闘うことの本質を理解し、強靭な魂と知能を武器に 刑事を貫くことを選びます。
視聴者は、スカッと解決することだけでなく、終わりのない悶々とした問題を、拒むことなく 懸命に考ることもします。 特殊能力という非日常の設定は、視聴者にとっても未知の世界であり、だからこそ考えるのかもしれません。