土地活用のノウハウ/土地活用のはじめ方[貸す・売る・建てる・等価交換]

もしも、事業用の適地にあなたの土地があったなら

長年住んでいた土地が突然、収用の事態に……。心を落ち着けて、対応策を考えました。初めは、自宅建替えを考えましたが、周辺環境の中で対策を検討することが必要と分かりました。結果はどうなったのでしょうか?

谷崎 憲一

執筆者:谷崎 憲一

土地活用ガイド

きっかけは土地収用 

家族みんなの幸せを願った対策を

家族みんなの幸せを願った対策を

父の代から都内で畳業を営んできたJさん。最近は畳の部屋が少なくなって、注文もめっきりと減ってきました。息子さんは大手企業に勤めており家業を継ぐ様子はありません。娘さん夫婦が近くに住んでいますが、夫はサラリーマン。「畳屋は自分の代でおしまい」とJさんは考えていました。

Jさんのご自宅の敷地は80坪。通りに面した表側に店舗兼作業所、その裏側に一戸建てがあって、奥様と暮らしていました。

そこにある日、「土地の収用についてご相談させてください」と、東京都の職員から打診がありました。Jさんの土地は予定されていた道路拡張部分にかかっており、周りでは次々とセットバックが始まっていたのです。

都の申し出は思いのほか丁寧なものでしたが、「先代から苦労して維持してきた土地は一坪も減らしたくない」と考えていたJさん、「そんな話は聞かないよ!憲法でも『財産権はこれを侵してはならない』とあるじゃないか」と、聞きかじりの知識をたてに、当初は話を断っていました。

でも実際には、憲法第29条第3項には、公共の福祉との調整を図るために、「私有財産は正当な補償の下にこれを公共のために用いることができる」と書かれています。

これにのっとって幾度も辛抱強く訪問してきた都の職員に説得され、Jさんは土地収用に協力し、同時に畳業をやめる決意もしたのでした。


土地と資金をどう生かすか?悩んだJさん

収用されることとなった部分の坪数、20坪。補償金額は4,000万円。税制上最高5,000万円までの特別控除があったため、Jさんの手元には、まるまるの現金4,000万円、さらに、広くなった道路に面する60坪の土地が残ったのでした。

Jさんは当初、古くなっていた一戸建てをこの機会に建替えようと考えていました。しかし、娘夫婦にもうすぐ孫が生まれることを思い出し、「できれば同じ屋根の下で一緒に暮らしたい」と、思い始めました。

さらに、同様に土地収用される隣家・ご近所には、ビルへの建替えを検討しているところが多いことも判りました。

「わが家だけが一戸建てで、それらに囲まれる環境でいいのか?」と、思い悩んだJさん。4,000万円を原資に、大きな家に建替えて娘夫婦と暮らすにはどうしたらよいか、私(谷崎)が、そのご相談に乗ることとなったのです。

私はさっそく、綿密なマーケティング・リサーチを行いました。その結果、比較的賑やかな土地周辺の状況、新たに拡張されて便利になる道路等の条件を考え、
「1階を貸店舗に」、「2階以上を住居とし、その一部を賃貸に」、そして、残りの部分にJさんご家族と娘さんご夫婦が暮らすかたちの併用住宅であれば、成功が充分に望めると判断し、それをお勧めしました。


土地が実力を発揮。早速埋まったテナント

間もなく建ったのは5階建てのビルでした。建築面積50坪。延べ床面積250坪の規模です。
収容前と、収容後の建築プラン

収容前と、収容後の建築プラン

建築費と解体などにかかった諸経費を含めた総事業費は約2億3千万円。

1階にはさっそく名の知られたカフェが目をつけ入居しました。優良テナントです。
2~3階は賃貸住宅。こちらもさっそく全室稼動となりました。4階、娘さんご夫婦とお孫さんの自宅。5階、Jさんご夫婦の自宅。

その収支は?

総事業費約2億3千万円のうち、自己資金として土地収用の補償金から3千万円(1千万円は貯金)。借入れは2億円を30年ローンで。

金利含め月々約80万円の返済です。

それに対し、家賃収入は、店舗と賃貸住宅を合わせて月140万円。維持費・諸経費月20万円とローン80万円を差し引いて、毎月手元に40万円の収入が残ります。

娘さんご夫婦・お孫さんとともに暮らす、豊かなJさんの老後が実現しました。

ここで、もしもJさんが、当初の考えのとおり一戸建てを建てていた場合、どのような結果が予想されたでしょうか。

土地収用補償金のうち3千万円を使い、6,000万円の二世帯住宅を建てたとして、残り3,000万円がローンに。月約12万円の返済です。家賃収入はありませんから、返済にあてる資金はその一切が持ち出しとなっていたはずです。

しかし、今回、舞い込んだ機会をとらえて有効な土地活用に踏み出されたJさん。
その後もJさんのビルの順調な稼動は続き、今回はうれしい成功例となりました。


成功は綿密な計画とシミュレーションから

Jさんのような選択をすると、貸家建付地の評価減や、小規模宅地等の評価減なども利用できて、相続税対策にも有利です。

しかし、当然リスクもあることを知っておいてください。

賃貸住宅や貸店舗には、つねに空室リスクが存在します。店舗が撤退し、予定賃料を大幅に失うなどのことが起こりかねません。

「自宅の建替えを考えているが、周辺環境を考えると店舗や賃貸住宅などの運営にも有利なようだ」と思われる場合、賃貸住宅併用、貸店舗併用、またはJさんのような両方を併用する住宅を考えてみるのもよいでしょう。但し、その際は必ずプロに相談し、綿密なシミュレーションを経た上での慎重な判断を怠らないようにしてください。


事業用定期借地権とリースバック 

道路収用が直接のキッカケでした

道路収用が直接のキッカケでした

Jさんの例は、道路の拡張によって便利な大通りに面することになったとはいえ、土地が60坪の広さであったため、実は比較的スタンダードな提案となっています。
しかし、たとえば事業に向いている土地で、敷地が150坪~300坪など大型、かつ自分は住まないものである場合、「事業用定期借地権」あるいは「リースバック」にチャレンジする選択肢もあります。

よく実現している例は、
・広い道路沿いなど、車の便のよい土地での「ロードサイド店舗」への土地賃貸
・用途は、コンビニ、ファミリーレストラン、自動車ディーラー、
スーパー、ホームセンターなど

これらの多くは、
・事業用定期借地権
・リースバック方式
のどちらかで土地活用されています。

両方の内容を説明しましょう。

●事業用定期借地権とは

 地主は土地を貸すだけ。借主(店舗事業主)が資金を出して店舗建物を建てる。地主は地代収入を得て、保証金を預かる(なお、事業用定期借地権では、契約期間が満了すれば、必ず土地は地主に返還されます)。

●リースバック方式とは

 地主が貸すのは店舗建物。地主は建物の貸主となって家賃を得る。
 その仕組みは……
 ・建築資金を「建築協力金」の名目で借主(店舗事業主)から無利息で預かる。
 ・それを使って地主が建物を建てる。
 ・地主は、借主(店舗事業主)から家賃を得ながら、建築協力金を同じ借主に返
 す(概ね15~20年返済)。つまり、「家賃-協力金返済分=残金」を毎月もらう。
 と、なります。

では、両方式の大きな違いは何でしょうか。それは、「建物の所有権」にあります。事業用定期借地権では、建物は借主(店舗事業主)のものです。一方、リースバックでは、建物は地主のものです。

●借主(店舗事業主)にとってリースバックは、
・建築への投資があとから全額返ってくる
・そのかわり、建物は自社の資産にはできない(定期借地契約ではせっかく投資しても、契約満了時の建物取り壊し・更地返還が基本)

●地主にとってリースバックは、
・建築資金がなくともローンの手間や金利負担を負わずに建物を取得でき、比較的リスクの少ない建物オーナーとなることができる(造成費用等の負担が生じる場合あり)。
・但し、建物を所有することによる租税・管理等のコストは負う。

といったメリット・デメリット、特徴があります。

リースバックか事業用定期借地権か? 

そこで気になる両者の収入ですが、「リースバック」と「事業用定期借地権」、地主の基本収入に大きな差は出ません。
定期借地権の場合の「地代」とリースバックの「家賃-協力金返済分」、両者は通常その額が一致するからです(どちらにしても借主側の投資予算までに金額が制約されるということです)。

ゆえに「建物の所有」を大きな魅力と感じるかどうかが、地主にとっての判断の分かれ目でしょう。

そこで、「負担少なく建物オーナーとなれるリースバック」での土地活用について、想定される不安などを挙げてみると……

・税コストと節税メリットの混在
リースバックにすることによって地主が負う建物固定資産税、家賃収入に直接かかってくる諸税、といった税コストが生じる。しかし一方では建物を所有することでの減価償却による節税メリットも。

・契約内容にかかわるリスク
建物の維持管理費用を互いがどう負担するのか、など、契約によっては地主の大きなリスクとなることも。

・将来の建物の運用見通しは?
契約期間満了後、抱えることになる建物をちゃんと運用できるか?(建物の耐用年数はどうか? 他業態に流用しにくい建物になってしまわないか? 今は優れた立地条件が将来悪化するおそれはないか?)

・アクシデントへの備えは?
借主(店舗事業主)の倒産、撤退、賃料減額請求、そうした場合の建築協力金返還の内容について、契約上どうなっているのか?

商業用の建物という大きな資産を手にすることで、希望も生まれますが、不安もまた同じくらいに生じてくるのです。

これらさまざまな想定にもとづいて、

「リースバックであるべきなのか」
「定期借地権の方がいいのか」

信頼できるプロと相談の上、しっかりした検討が必要であることは言うまでもありません。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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