シンプルライフ/シンプルライフの達人

横井庄一さんを知っていますか?(3ページ目)

「持たないことを選ぶ」それがシンプルライフです。でも、「持たないことしか選べない」としたら……? これは、戦争によって、そんな究極の選択を28年の間強いられた、一人の普通の青年の物語です。

金子 由紀子

執筆者:金子 由紀子

シンプルライフガイド


火を起こし、絶やさない工夫

毎日グラフ

帰国当時は横井さんのニュースで連日大騒ぎ。マスコミの取材攻勢と人々の好奇心にさらされ、人間不信に陥ったことも

マッチもなく火を起こす苦労はたいへんなものでした。拾ったワイングラスで作ったレンズを火災で失ってからは、竹をこすり合わせて発火させ、それを縄に移して竹筒に入れて持ち歩き、火を絶やさないようにしました。

火があれば、暖をとることができるだけでなく、調理したり、鉄カブトの鍋でヤシの実を精製して油をとったり、食料を乾燥させて保存食にすることさえできたのです。

ただし、高所に上れば輝く海も見える距離にいながら、塩はまったく手に入りませんでした。海岸線に近づくのは危険すぎるためでした。



徹底的に身を隠す生活

洋書

美保子さんの甥が英文で執筆した横井さんの評伝も英国で出版された。

終戦を知らされなかった横井さんが最も恐れたのは、“敵”に発見されることでした。事実、終戦後にも、住居や食料確保のために存在を知られ、死んでいった仲間たちを見ているそうです。したがって、一切の生活の痕跡を残さずに行動しなければなりません。獣を装い、直線ではなくジグザグに歩く。足跡は必ず消す。決して音を立てず、独り言さえ言わない。落ちているヤシの実は、10個あっても3個だけ拾う。匂いと強い煙の出る「焼く」調理はご法度で「蒸す・煮る」のみ……。

その緊張感たるや尋常のものではなく、帰国後横井さんの脳波を計測した医師は「熟睡時に出る脳波がまったく検出されなかった」と発表しています。

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