においを識別するタンパク質
香りを感じるしくみについては、研究や調査があまり進んでいませんでした。香りを感じるメカニズムを解明しても、あまりビジネスになりづらかったということでしょうか。この臭覚のメカニズムを一気に解明に持ち込んだのが、2004年にノーベル賞を受賞した、コロンビア大学のリチャード・アクセル博士と、シアトルにあるフレッド・ハッチンソン・ガン研究センターのリンダ・B・バック博士です。
フルーティフローラルの香りが人をポジティブな感情に変化させ、笑顔に導く
両博士は鼻のなかにあるにおいを識別するタンパク質の実態を明らかにし、これらのタンパク質がにおいの情報をどのように脳に送るかを追跡。そして鼻のなかにある、さまざまなにおいを感じるタンパク質…「Gタンパク質共役受容体」を特定したのでした。
またその後、「Gタンパク質共役受容体」は脳細胞にも存在して、香り以外の種々の細胞どうしの情報伝達に関与していることが判明し、新薬の開発を行うためのターゲットとして脚光を浴びています。
嗅覚の役割とは
人の五感の中で、臭覚が他の五感と大きく違う点は、その感じる香りの種類の多さです。味覚の場合は甘味・酸味・塩味・苦味・うま味の5つで受容体を構成するのに対して、香りの場合は、数百種類の“におい受容体”がそれぞれ別のにおい分子を検知します。そして、脳はどの受容体が活性化したかという情報を受け取り、そのパターンをにおいとして解釈するという訳です。そもそも生物が進化の過程でコミュニケーションを行おうとした時に、視覚・味覚・臭覚のなかで、一番多く情報量を発信できるものが、まず臭覚だったということです。
動物では臭覚がコミュニケーションの大きな部分を支配しています。実際にオオカミや犬は、優れた嗅覚でコミュニケーションを行っていることが知られています。お散歩のときに必ず匂いを嗅ぎながら少しずつオシッコをかけていくのも、匂いのコミュニケーションのためです。
当然動物から進化したヒトも、臭覚をコミュニケーションの観点から利用しています。例えば女性や男性の魅力性を判別するときは、本能的なところで香りを意識しているようです。
「Gタンパク質共役受容体」の発見以降、香りを感じるメカニズムはかなり分かってきました。しかし、人体への生理的作用の解明と研究は、まだ始まったばかりです。
<最近の香りに関する研究成果>
- フルーティフローラル調の香りが人の感情に与える影響を実証
ポーラ化成工業株式会社は、香りが人の感情に与える影響について調べたところ、濃厚な果実と華やかな花々を融合したフルーティフローラル調の香りが人をポジティブな感情に変化させ、笑顔に導くことを実証しました - 東北の支援活動で「椿」の香りによる気分・睡眠不調の緩和を確認
資生堂はリラックス効果を有する香気成分や伝承的に睡眠不調に用いられてきた香気成分に加えて、岩手県大船渡市を代表する「椿」の花の香気成分を配合し、疲労時に落ち着きやくつろぎを感じる香りを新たに開発し、試作品で気分や睡眠の不調に関する自覚症状が有意に緩和することを確認しました - ビールテイスト飲料の香りが「のど越し」に影響することを世界で初めて発見
ホップに含まれる香り成分をビールテイスト飲料に添加することにより、「しっかりしたのど越し(飲みごたえ)」を感じるようになることが、官能評価、及び筋電位計測を使った「のど越し」測定により、明らかになりました(サッポロビール)
■参考
- 現代化学H16-12月号
- Food Analysis Technology Center SUNATEC