ポジティブ投稿がポジティブ投稿を呼ぶ
実験の結果、ニュースフィードでポジティブな表示が減ると、ユーザー自身の投稿でもポジティブワードが減り、ネガティブワードが増えたことがわかりました。逆に、ニュースフィードでネガティブな表示が減ると、ユーザーの投稿ではポジティブワードが増え、ネガティブワードが減っていました。
これらの結果から、Facebookにおいても他人の感情が自分自身の感情に影響を与えていると結論付けています。つまり、ポジティブ投稿がポジティブ投稿を呼ぶ、ということです。また、従来の情動感染で言われているような直接の対面は必須ではない、ということも述べています。
ところが、この実験対象となった約70万人のユーザーに事前告知をしていなかったことが問題視されているのです。論文が掲載されているページでは、研究に協力したカーネル大学や、論文を採択した学術雑誌にも問題があるというコメントが寄せられています。
SNSを使った心理実験に新たな課題
通常、心理実験を行うときには、事前に被験者の同意が必要です(実験目的や具体的な手法を明かさないときでも同意は必要です)。この点について論文の著者らは、Facebookを利用するために同意する「データの使用に関するポリシー」に準拠していると主張しています。確かにポリシーでは「Facebookが受け取る情報の用途」のひとつに「トラブルシューティング、データ分析、テスト、調査、サービスの向上等の内部運用」を上げています。今回の実験は「テスト、調査」に含まれ、ユーザーの同意は得ているという解釈です。
SNSで行う心理実験は、ユーザー自身の感情や、ユーザー同士の友情に影響を与える可能性があります。今回の実験も、ユーザーに対して事前説明をすべきだったという声が多数を占めています
後日、論文の著者であるFacebook社のアダム・クレイマー氏は自身のFacebookで公式見解を述べ、友達のポジティブな投稿(いわゆるリア充投稿)を見たユーザーが悲観的になっていないかを確かめるためのテストだったとしています。また、今後は事前同意がない実験は行わないというニュアンスを示しています。
ただ、この手のテストはインターネットサービスでは珍しくありません。ウェブサイトのレイアウトを変更して広告のクリック率の変化を見るといったこと(A/Bテストなど)は、広く行われています。今回は人の感情をターゲットしたことが、議論を呼んでいるのでしょう。
今後、事前通知があったとして、みなさんはこのような心理実験をどう思いますか。サービス向上はユーザーにとって喜ばしいことですが、そのために自分が利用されることについては、考え方は人それぞれでしょう。人と人とのつながりを重視するSNSだからこその新しい課題と言えるのかもしれません。