レアグルーヴ的沖山優司
ガイド:サウンド陣も至極納得がいく、素晴らしい人選だと思います。
沖山優司さんがいたジューシィ・フルーツはテクノポップのバンドとして認識されていますが、同時に早過ぎたネオGS的サウンドの側面もありました。作曲編曲が多く、ディレクターとしてもクレジットされている沖山さんの役割は大きかったのでしょうか?
サエキ:
沖山君が60年代GS、歌謡シーンと、80年代テクノシーンをつなげた功績は大きいです。近田さんがからんでいたことは天命ですね。そこに高さんが80年代後半、歌謡曲への視線を重ねていったのです。沖山君自体は、『ハレはれナイト』の「ベッドタウンの夜は更けて」で分かるようにゴリゴリのテクノ指向なのですが、バンドは近田春夫とビブラストーンになっていき、そこではゴーゴー(当時流行ったトラブル・ファンクなどのリズム)やレアグルーヴ的な生ヒップホップ演奏を旨としていました。その幅の広さが、多様な楽曲の編曲を可能にしたのだと思います。
あと、ネオGSの人脈が実は、渋谷系を作りだしたことも忘れられない。そうした人脈もファントムギフトを核に散りばめられてます。そこも90年代の予言になってますね。
ザ・ファントムギフト
ガイド:泉アキWITHザ・ファントムギフト名義での「ドゥビ・ドゥビ」は、とても好きな曲です。GS歌謡的エッセンスを持ちながらも、今聴くと和製としては貴重なジャングルビート歌謡になっている気がします。ファントムギフトはネオGSの旗手ですが、サエキさんのGS体験はどのようなモノだったのでしょうか?
サエキ:
ファントムギフトのバンドサウンドは凄かったです。もっと色んなセッションを残して欲しかった。ファントムは様々なロックをエッセンスとして取り込んでいる。そこがまだロックに追いついていないGSとの違いです。B級以下のGSの多くは、ジャズ系の方が覆面演奏してたりするわけですが、そうした演奏とは本質的に違う重いビートがある。そこに泉アキのような天才歌手がからむと、60年代の録音にできなかった境地が生まれるわけです。そこもこのアルバムの魅力です。
窪田晴男のキャラクター
ガイド:近田さんが絶賛されている「涙のサスピション」のボーカルは、パール兄弟の相方、窪田晴男さん。ジェームス藤木さん(クールス)の曲も凄くハマっています。ここで窪田さんがボーカルをとるアイデアはどこから?あと、ぜひこれは今再びライヴで聴いてみたいです。
サエキ:
「涙のサスピション」はクールスのジェームス藤木さんの信じられないほどの珠玉の名曲です。こうしたメロディーをもらえたのは、高さんとクールスの長年の関係があるからです。そこに近田さんは撃たれていると思う。窪田の起用は、高さんが、窪田晴男のキャラクターを買っていたからだと思います。ちょっと荒木一郎みたいな感じもしますよね。いわゆる一人GS的なノリのよさ。それはパール兄弟では出ない。もっとシンプルなソウルサウンドでメロディアスに、という構想で、実現した。しみじみ上手い演奏でもあります。パール兄弟のスピンオフ企画としては、たいそう貴重です。こういう曲ばっかりのアルバム聴きたいですよね。高さんのそうしたプロデューサー的嗅覚は凄くて、おそらく実現してないアイデアは星の数ほどありますよ。