テクノポップ/アーティストインタヴュー

『ソリッドレコード夢のアルバム』復刻(3ページ目)

ソリッドレコードからの復刻、最後の一枚となる『夢のアルバム』は、歌謡曲スターとニューウェイヴ系アーティストの共演。単なる企画ものではない、和製レアグルーヴの先駆けとも言えるこの試みについて、再びサエキけんぞうさんに登場いただき、このアルバムが出来上がった背景を語っていただきました。

四方 宏明

執筆者:四方 宏明

テクノポップガイド

“恥ずかしくない”歌詞

ガイド:
作詞に関しては、サエキさんへ全面委任されていますね。近田春夫さんがライナーノーツで、“新鮮だけれども恥ずかしくない”絶妙のバランスがあるサエキさんの歌詞をべた褒めされていますが、サエキさん自身、そこには意識はあったのでしょうか?

サエキ:
dreamyalbum-label

ソリッドレコード夢のアルバム(Label)

そこです。こんな大変な仕事はありませんでした。なぜなら、歌謡曲の詞というのは「恋の季節」(ピンキーとキラーズ)の“夜明けのコーヒー”にしろ、ピンク・レディーの「UFO」にしろ、時代の先端であるトピックを入れてあるから「歌謡曲」だったのです。70年代の阿久悠さんの詞などはまさに、先端風俗の塊だったわけですよ。ところが「再誕」のウィークポイントは、実はサウンドもそうなんですが、一度、前線を退いたシステムを再稼働させなければならないところなんです。それはゴリゴリ先端であってもいけない。ニューウェイヴのように、様式になり得る新しいシンボルはなかなか付けづらい。違和感が出る。

例えば83年に小泉今日子さんに提供した「マッスル・ピーチ」(筋肉の桃というきわどいコンセプトでニューウェイヴ性を出した)がありました。しかし、そのようなエッジーな詞では、70年代的「歌謡曲性」は損なわれてしまうんです。そこを近田さんは「恥ずかしい」「恥ずかしくない」のボーダーとしてると思う。「マッスル・ピーチ」は『夢のアルバム』に入れると「恥ずかしい」詞だと思う。それと70年代と80年代では、歌謡曲のテーマとする男女の関係自体が変わってしまっている。そこも大きい。80年代ではすでに女性は「泣かなく」なってたり。つまり、70年代歌姫達の芳香を損なわないようにリスペクトしながら、エッジもそこはかとなく溶けこむように出す、というはなはだ微妙な位置づけ。

高さんの頭の中では「グラフィティである」ということと「時代の先端の持ち味がある」ということがソリューションとしてあったとは思うのですが、厳格に言語化されてはいなかったと思う。そこで、ミーティングはけっこう難航しました。若干、ディレクションは感覚的だったと記憶します。「イメージはあるんだけど、時に言葉にならない」という感じですね。僕が何を書いても気に入ってもらえないこともあって、高さんが「こんな感じ」と詞を書かれたこともあり、それでもなかなかうまく摺り合わせられない(笑)。でも、そんなもどかしいやりとりも、このアルバムが実は、ありえないこと、80年代末の70年代前半的歌謡というSF的な作業をやろうとしていたからなんです。その試行錯誤がこの盤の至高の価値なんです。つまり、時の流行から自由になって、ある時期の文化を再構築するというクリエイティヴィティの誕生ですね。

 

ロック演奏家(バンドマン)のアルバム

ガイド:
作詞家として、プロデューサーと作曲家とはどのようなプロセスで曲を完成させていったのですか?

サエキ:
えっと、まず曲が先です。歌手に合わせてデモを仕上げたわけですね、各人。作曲家も大変だったとは思います。なんやかんやいっても、インディーズではありますから。大変さの意味は詞と同じで、時流を追うのではなく、かといって後ろ向きにならず、このアルバムならではの曲にする。さてそのサウンドは?ってことですね。

さて、ここで思い出していただきたいのですが、1980年代末は、歌謡曲はかなりコンピュータ化されてました。MIDI操作が十分に成熟して整然とした編曲が行われ、打ち込み中心なんだけど、もはやテクノのゴツゴツした持ち味も失われていました。そんなハイブロウな歌謡曲を向こうに回し、人力バンドで70年代をふり返ること自体が無茶な相談なのです。つまり、通常は、ローファイでユルいものになってしまう。この盤を聴いて驚いて欲しいのですが(笑)コンピュータで作ったサウンドに負けない、緻密なノリと、機械で出せないウキウキとしたグルーヴがあります。

そこは沖山優司君の緻密かつノリの良いベースの功績ではないか?と思っています。また、「M5涙のサスピション / ハルヲ&パール」(VO: 窪田晴男、演奏: パール兄弟)「M8. アニマ・プリズミィ / PPS」(VO: 小西康陽、高浪慶太郎、サエキけんぞう、編曲: 上野耕路)のような歌が、本来は足もとにおよばない大歌手達を相手に善戦して機能していることの不思議を見つめてください。その理由は、結局のところ『夢のアルバム』は、ロック演奏家(バンドマン)のアルバムでもあるからなのでしょう。バンドマンのメンバー歌手が歌ったから、やはりそれがシックリ来たのではないでしょうか?これは高さんのプロデュースの元に、沖山君や、ファントムギフトや、岡田陽助君や、小西・高浪コンビが結集した「バンド・ゼネレーション」のアルバムなのです。70年代までの歌謡曲は、ジャズメンくずれのスタジオミュージシャンに支えられたことを思い出してください。別の世代の代物なんですね。SFCフレンズであるミュージシャン達の演奏は絶品です。

 

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