最上質なリズムが抽出されている
ガイド:今、サエキさんの言われた部分は、このアルバムの意義を考える上でとって重要なポイントですね。『夢のアルバム』は60年代末~70年代に活躍したスターとニューウェイヴ系(かなり広い意味で)アーティストの夢の共演(そしてそこで起こる新しい化学反応)というのがコンセプトだと思えますが、やはりこのアルバムの素晴らしさは両者の人選の妙から来る所も大きいですよね。人選はどのようになされたのでしょうか?
ソリッドレコード夢のアルバム+2
01. 恋のエクリチュール / 奥村チヨ
02. アンブレラの香り / 平山三紀
03. 花のよぶ丘 / ミキ&カヨコ
04. ドゥビ・ドゥビ / 泉アキWITHザ・ファントムギフト
05. 涙のサスピション / ハルヲ&パール
06. 夢みるハイウェイ / 青木美冴
07. スカンジナビアの白い夏 / 渚ゆう子
08. アニマ・プリズミィ / PPS
09. バタフライ / 山本リンダ
10. 朧月千夜一夜 / 平山三紀
<ボーナストラック>
11. ドゥビ・ドゥビ(カラオケ)
12. 涙のサスピション(カラオケ)
サエキ:
その御言葉は慧眼でありまして、以上の経過から、発祥は、ニューウェイヴ系の人脈であることがわかります。では、なぜ手ざわりとして90年代のクラブ系の匂いが漂っているのか?それは沖山優司さんが加入する近田春夫とビブラストーンが台頭してくる前夜であることに現れてるでしょう。彼らは『夢のアルバム』が出る次ぎの89年には、ヒップホップやレアグルーヴも先取りしていたのです。
高さんが大事にしていたのは、何より歌謡曲としてのリズムの切れ味です。モサいことが何より嫌いな方ですから、こうして、クラブ感覚への予感も背景に、当時SFCが繰り出す最上質のリズムがここに抽出されているのです。70年代から90年代までの日本のポップスが、バンドサウンドとして総覧されてる感もあります。
制作陣にはそうした若い力の結集がありましたから、高さんは自信満々だったはず。そこで、彼の長年の夢であり、そして様々な親交をたぐり寄せて、歌謡曲界のスーパースター達の登場を口説き落とそうと思ったのではないでしょうか?高さんは、端緒はファンとして接していた音楽業界でありましたが、好きな歌手達を凄い引力で、仕事レベルとしてたぐり寄せていったわけですね。
平山三紀バンド
ガイド:平山三紀(現・平山みき)さんは2曲歌われています。平山さんは近田春夫さんのプロデュースで、1982年に『鬼ヶ島』というアルバムをリリースして、『夢のアルバム』の先駆け的存在ですね。かつ、このアルバムは窪田晴男さんが在籍したビブラトーンズが全面的にサポート。そういう意味でも、平山さんは彼女の参加は必然とも言えますね。
サエキ:
平山さんは、すでに僕も窪田晴男を通して親交がありました。ですから、我々にとって最も親しみ易い大物歌手でした。『鬼ヶ島』の後には、窪田晴男がバンマスになり、ロックバンド的に平山三紀バンドが作られ、そこにも詞を提供していました。(未発表曲あり。鈴木さえ子曲「夜のウイウイ」はもともと平山バンド用に作った詞である)その成果は『EMISSION』のB面となりました。また伊集加代子さんも高さんには近い存在だったと思います。
このように、60年代末~70年代前半のヒップな歌謡曲歌手が、身近になる例もありましたが、その他は、このアルバムのために呼び出したと思います。高さんの指向は、自分の手元に有名歌手を引き寄せて手慰みとして楽しむことではありませんでした。高さんが目的としたのは、崇高な目標であります。それは80年代末に機能しうる「新しい歌謡曲」だったのだと思います。
再誕(リヴァイヴァル)
ガイド:歌手陣の中では、高さんが再発掘された小山ルミさんが歌うというアイデアもあっておかしくないかなと思ったのですが…
サエキ:
ここには本当の実力派歌手しかいません。小山さん、大好きですが、残念ながら歌唱力的には、ここに入れないかも。歌唱力的には他に、黛ジュン、今陽子、欧陽菲菲、由紀さおり、夏木マリ、等が候補になり得たと思います。夏木さんは実際に90年代に(ゲンスブール委員会プロデュース『ゲンスブール・トリビュート95』(コロムビア)をきっかけに)小西さんが再誕させますし、ピンク・マティーニが2011年に由紀さおりさんを再ブレイクさせるわけです。『夢のアルバム』がそうした試行の先がけとなっていることは間違いないと思います。もちろん、小山ルミさんを新しく再誕させるというのは、僕は凄く興味あるアイデアですが。