絵本/絵本関連情報

これも1つの死生観 子どもと読む『かないくん』

絵本『かないくん』は、死をどこか別の世界のことと感じている私たちに考える時間を与えてくれる作品です。大人向きの絵本ですが、中学年以上のお子さんなら、「生と死」について親子で一緒に考えるきっかけとなることでしょう。

執筆者:大橋 悦子

死について子どもと一緒に考える「時間」を与えてくれる絵本

多くの人は、普段の生活の中で、死について考えることはあまりありません。大切な人の死やペットとの別れの際には、その死を受け止め向き合うことに精一杯で、冷静に死について考えることなどできません。一方、日常的にはメディアを通して死があふれるほどに報道され、死に対して鈍感になっているようにも思えます。

話題の絵本『かないくん』は、そんな私たちに死について考える時間を与えてくれます。大人向きの絵本ですが、小学校中学年以上のお子さんなら、答えを明示できない「死」というテーマについて親子一緒に考えるきっかけとなることでしょう。

「死」を考えることは「生」を考えること

『かないくん』の表紙画像

真っ直ぐ前を見据えるかないくんの目には何が映っているのでしょうか?

「かないくんは、僕の友だちだ。友だちだが親友ではない。そんなかないくんが突然この世を去ってしまう。死んだらどうなるのか、死んだら独りぼっちになるのか、かないくんの死を通して僕は日常の中で死について静かに考えていく……。」

そんな物語の直後に、突然現れる車いすにのった白髪の老人。それは絵本作家になった何十年後かの僕の姿でした。老人は、かないくんが登場する絵本を描いています。上記のストーリーは絵本の中のお話であると同時に、老人が実際に経験したことでもありました。そして今、老人は自身の余命が幾ばくも無いことを知っており、この絵本をどのように完成させたらよいのか迷っています。

小学校の教室のイメージ画像

かないくんの机や椅子もまた、彼の生きた証のひとつ

若き主人公と晩年の主人公、ひとりの人物が2つの死を見つめています。1つは「他者の死」で、もう1つは「自分自身の死」。他者の死は見届けることができるけれど、自分自身の死を見届けることはできません。しごくあたりまえのこのことが死を考える時に越えられない壁になってしまいます。

子どもも大人も、死を見つめる時は大抵誰かの死をみています。この絵本は、その視点をすうっと自らに向けさせてくれる、そして自然と死について考えさせてくれるのです。「私は、死んだらどうなるのだろう?」と。その答えを探そうとすると、必ずどう生きるかということにぶつかるのかもしれません。この絵本が、「死を考えることは生を考えること」だと気づかせてくれました。生死が表裏一体だというのも1つの死生観。その考え方は、子どもたちにとって不思議で新しい発見になるかもしれません。

さて、この作品は、深いテーマを扱っていますが、決して重苦しいばかりの絵本ではありません。穏やかで美しい色使いは残された者の希望さえ感じさせてくれます。誤解を恐れずに申し上げれば、むしろ潔く爽快感さえ漂わせた作品です。お子さんが死について考え始めた時に、どうぞゆっくりとページを開いてみてください。


【書籍DATA】
谷川俊太郎:作 松本大洋:絵
価格:1728円
出版社:東京糸井重里事務所
推奨年齢:小学校中学年くらいから
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