石川 尚のスケッチコラム「椅子のある風景」#36

「オーストリアの湖水地域」ザンクト・ウォルフガング: St Wolfgang


どこにいても、「何気なくある椅子」が気になる。
そして、その場所、空間の一部になりきっている風景がそこにある。

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ウィーンの西駅から鉄道(ウエストバーン)に乗ること3時間、オーストリア西部の都市:ザルツブルグ駅へ。
駅前のバス停から#150のバスに乗り、途中シュトローブルでバスを乗り換え1時間半で目的地ザルツカンマーグート:ウォルフガングへ着いた。

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ザルツカンマーグートとは、オーストリア・オーバーエスターライヒ州にある湖水地域のこと。映画「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台になった緑豊かな山地である。

今回で4回目のここウォルフガングは、街も湖畔も山の風景もなにも変わっていない。
ただ、レジャーシーズンが始まって小さな街はにわかに活気づいている。
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2年ぶりのコージーな宿にチェックイン。
宿主ご夫婦の変わらずの優しさに長旅の疲れもどこかへ。
荷物を部屋において早速、気に入りの朝の湖畔を散歩する。


静寂の湖畔に絵になる椅子の風景がある。

湖畔をうねるように遊歩道があり、ゆっくりとした時間が流れている。
街の中心地を過ぎ歩くこと10分、シャーフベルク鉄道駅の近く、大好きな場所がここにある。

支えのコンクリートは地中に埋め、陽に焼け灰色となった木のベンチ椅子が湖畔に向かって佇んでいる。

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ベンチ椅子に腰をかけ目の前にひろがる景色には暫し、言葉がでてこない。

たおやかに広がる湖水の面。軽快に全てを覆い尽くす青い空。
湖水と空を結ぶかのようにボートが浮かぶ。
左側には、街の中心塔、ザンクト・ヴォルフガング巡礼教会。湖をへだてて左側は特徴的な山容のシュパールバー山、その向こうにダッハシュタイン連峰が静寂の時を刻んでいる。(ドイツ語圏なので名称は不確かだが、間違えていたらご容赦を)

10年前、最初にココに来た時はとんぼ返りの日帰り。それでもこのベンチ椅子に数時間座って景色を愉しんだことをよく覚えている。
あれは秋口の少し肌寒い時期だったなぁ。

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初めて見た風景と今目前にある風景とは何も変わらない。
日々暮らす大都会の七色変幻の風景とは真逆の風景だ。
時を忘れただただ静寂の中に身をおくと、おのれの全てが空っぽになってゆっくりとした時間と一体になる。

「浮き世の憂さを暫し忘れて、変わらぬ景色を愛でてください。」
いつもボクにそんな言葉をかけてくれる椅子たちが、ここに佇んでいる。

天と地と静寂の湖畔、ゆったりと流れる時のうつろい、そして絵になる椅子の風景がここにある。

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