本門寺参詣客を見込んで鉄道敷設、
駅からは門前町が続く
東急池上線は五反田駅(品川区)と蒲田駅(大田区)を結ぶ全長10.9キロの路線。もともとは池上電気鉄道が蒲田~池上間を日蓮宗の大本山池上本門寺への参詣客輸送を目的に敷設した路線が紆余曲折を経て現在の形になったもので、東急の他路線に比べると知名度は今ひとつ。木造の駅舎や駅舎と一体化した木製ベンチなどレトロというか、古めかしい設備が残されている路線でもあり、特に池上駅(大田区)には東急線の中で唯一残された構内踏切が。知らない人が見たら、これが本当に都内の駅かと思うかもしれません。
その分、沿線はのんびりした昭和の雰囲気を残しており、駅前には個人商店を中心とした商店街が続き、少し入ると一戸建て中心の住宅街。静かな暮らしが続けられています。
その中でも池上は池上本門寺の門前町として栄えてきた街で、駅前には池上本門寺と大書した標識があり、雰囲気のある久寿餅屋さんがありと、いかにも古い門前町らしい雰囲気。駅前のロータリーから門前に続く道中には蕎麦屋さんを始めとする飲食店が並び、路上には赤い毛氈を敷いた縁台も。毎年10月11~13日に行われるお会式(日蓮入滅を記念したイベント)には多い年で100万人もの人が訪れることがあるそうです。
また、平成22年からは3月~6月、9月~12月の年8回、第3日曜日7時~11時に総門石段下で地元商店街が中心となった池上本門寺朝市が開催されるなど、地域に密着したイベントの場にもなっています。たまに訪れる人には厳かな雰囲気の寺院ですが、地元の人にとっては日常の憩いや集いの場のひとつというわけです。
地域で連携を進める商店街に温泉、
過去には競馬場もあった街
門前へ続く通り以外では駅から池上線に平行に伸びる通り沿いに商店街が伸びています。八百屋さん、おでん種屋さん、酒屋さん、おもちゃ屋さんなどに混じって左官屋さんの看板などもあり、古い街であることが分かります。地元の利用客が多いからでしょう、あちこちで挨拶しあったり、立ち話している姿を見かけました。
ひとつ、いいなあと思ったのは池上駅周辺にある12の商店街がまとまってひとつの情報サイト「池上ショップ情報サイト」を作っていること。一般に隣り合う商店街同士はあまり仲が良くないもので、それが街全体の発展を妨げることも多々あるようですが、池上周辺に関しては商店街の枠を超えて個店を検索することもでき、一体感が醸成されている様子。商店街の生き残り策としては賢明な手です。
本門寺、池上通り、商店街がある駅北側に比べると南側は駅近くに多少の商業施設はあるものの、それ以外は主に一戸建てが並ぶ住宅街。地図を見れば分かりますが、きれいに碁盤の目上に区画されており、整然とした街並みが続きます。このあたりは明治42年に発布、同44年から施工された耕地整理が行われたエリアで、当該地域では大正年間に耕地整理が行われています。本来は耕地として区画されたわけですが、効果は後の土地区画整理事業同様、宅地化に大きく貢献するものとなりました。
また、池上6~7丁目にかけては明治39年(1906年)から明治43年(1910年)という短期間ですが、1周1800m、横浜の根岸競馬場に次ぐ規模の競馬場がありました。残念ながら、その後の耕地整理で今は跡形もありませんが、元々が平坦な土地だったということだけは分かります。
もうひとつ、このエリアらしいのは銭湯。黒湯、ナトリウム炭酸水素泉など、いずれも美肌の湯といわれる天然温泉を利用しており、湯冷めしない距離に住めば生活が楽しくなるでしょう。
続いて東急池上線池上の住宅事情を見ていきましょう。