『VAMP ~魔性のダンサー ローラ・モンテス~』
8月24日~9月8日=EX THEATRE ROPPONGI『VAMP~魔性のダンサー ローラ・モンテス~』
世の中にはまだまだ知られざる「数奇な人生」がある。その格好の例がこの実在の人物、ローラ・モンテスです。19世紀前半、アイルランドに生まれた彼女は駆け落ちで家を飛び出し、ロンドンでスペイン人ダンサーとしてデビュー。フランツ・リストら著名人の愛人として名を馳せ、一時はルートヴィヒ一世の寵愛も得るが次第に没落、オーストラリアでの踊り子生活を経てNYで病没……。まだ女性の生き方が限定的だった時代に、世界を股にかけて生きた彼女の壮絶な人生が、黒木メイサさん主演で舞台化されます。
共演に橋本さとしさん、中川晃教さんらミュージカルに欠かせないスターたちを迎え、歌とフラメンコやタップ等、多彩なダンスが差し挟まれる予定。熱い舞台づくりに定評のある岸谷五朗さんの演出で、日本ではあまり知られていない「ローラ・モンテス」の生き方を強烈に印象づける作品になりそうです。
『VAMP~魔性のダンサー ローラ・モンテス~』
5人の男たちが現れ、花々で飾られた墓からローラ・モンテス(黒木メイサさん)の魂を呼び覚まし、彼女の恋愛遍歴を振り返ってゆくという構成の舞台。最初の駆け落ち相手(水田航生さん)はタップダンス(音楽はアイリッシュ風)を踊り、フランツ・リスト(中川晃教さん)は彼女のために作曲した曲を弾き、アレクサンドル・デュマ(新納慎也さん)は自作の『三銃士』をミュージカルとして演じてみせ、評論家のアレクサンドル・デュジャリエ(中河内雅貴さん)は激しいマタドール風ダンスを差し挟みながら厭世的な台詞を吐き続け、ルートヴィヒ一世(橋本さとしさん)は激しいハードロックを歌唱……と、5人の男たちとのエピソードがバラエティに富んだスタイルで登場します。(中でも、ピアノ演奏とそのピアノの上でのローラのダンスで表現するリストとのベッドシーンはすこぶるエロティック。横向きにピアノを弾き、姿勢も動きも制限された中での中川さんのパワフルな表現に目を奪われます)。しかしローラはその誰にも満たされることはなく、時折登場する自身の心の「闇」(早乙女太一さん)の存在に悩まされ、破滅してゆく……。
『VAMP~魔性のダンサー ローラ・モンテス~』
『赤毛のアン』
8月31日~9月28日=自由劇場『赤毛のアン』写真提供:劇団四季
NHKのドラマ『花子とアン』で今、再び注目されている『赤毛のアン』。「アンがグリーンゲイブルスに迎え入れられるまで」「石版事件」「スグリ酒事件」「緑の髪事件」など、原作の名場面を丁寧に構成し、時に抒情的、時に躍動感溢れるナンバーで彩った名作ミュージカルが東京に帰ってきます!想像力に長け、人一倍お喋りなアン。けれどその内面には孤児として育った彼女の、いじらしいほどの人恋しさがあることが、舞台版では俳優の演技を通して分かり易く描かれ、観客の共感を誘います。マシューの助言を受け入れ、少しずつ周囲の人々と関係を築いていくアン。そのマシューとの哀しい別れを経験し、大きな夢を追っていたアンは一つの決断を下します。「人生で本当に大事なことって何だろう」。帰り道、愛に溢れた舞台の余韻に浸りながら、ふとそんなことを考えたりもできる、味わい深い作品です。
『赤毛のアン』撮影:荒井健
優しい気持ちになれるミュージカルが東京に帰ってきました。アン役は、前回公演が初役だった若奈まりえさん。くりっとした瞳が、好奇心いっぱいのアンにぴったりの新星です(『魔法をすてたマジョリン』記事にインタビュー有)。前回はその初々しさが、アンが村での生活に順応してゆくまでの過程にぴたりとはまっていましたが、今回は終盤の、悲しみを超えて人間として成長してゆく芝居が格段に魅力的。彼女を囲む村人たちも、ちょっと癖のあるキャラクターもいるものの根は皆あたたかで、ポジティブな物語世界に大きく貢献しています。マシュー役は初役の菊池正さん。劇団きってのダンサーのお一人とあって、ちょっとした立ち姿や動きが美しく、実はマシュー、女性たちにもてていた?!などと、想像する楽しみが加わりました。
ところで、このお芝居を観るときっと食べたくなるのがアイスクリーム。1幕最後のナンバーのタイトルでもあります。歌詞の上ではシンプルなアイスクリーム讃歌ですが、ピクニックに初めて参加したアンの昂揚感がそのまま音に変換されたかのようなメロディは、とびきりの楽しさ。季節はこれから肌寒くなりますが、アンのように、バニラアイスをぺろりと舐め、ささやかな幸せをかみしめるのもまたいいものです。