絵本『ひ・み・つ』が読者の心をつかむワケ
田畑精一さんの絵本『ひ・み・つ』は、大好きなお婆ちゃんの願いをかなえるために奮闘する孫・ゆうきの姿を描いた心温まる作品です。でも、普通の絵本とちょっと違うのは、お婆ちゃんのとてもロマンティックな秘密のお願いごとを軸に、絵本の中に読者の心をつかんで離さない秘密ポイントがあること。その秘密を紐解きながら、七夕の季節にピッタリの絵本をご紹介していきます。秘密1:ゆうきの心をつかむお婆ちゃんの「お願いの秘密」
お婆ちゃんがゆうきに打ち明けた秘密のお願いごととは、40年前に亡くなったお爺ちゃんに会ってダンスがしたいということでした。絶対にかなわないであろう切ない願いをかなえようと、ゆうきは一所懸命知恵を絞ります。ゆうきがそれほど頑張るのは、ただお婆ちゃんが大好きだからという理由だけではないように見えました。お婆ちゃんの願いがゆうきの心をつかんだのは、まさにその「秘密」という言葉がポイントです。大きな声では言えないけれど、実は大人も子どもも秘密が大好きでしょう?! 「これは秘密」と言われるだけで、誰だってちょっとドキドキしますね。お婆ちゃんのお願いが秘密だったからこそ、ゆうきはその願いをかなえるために頑張れたという一面もあるのではないでしょうか。
そして読者もまた、ゆうきといっしょにお婆ちゃんの秘密のお願いに関わることに、ちょっとした高揚感を味わうことができるのです。
秘密2:小さな読者の心をつかむ「ワクワクの秘密」
お婆ちゃんの切ない願いを知れば何とか叶えてあげたくなりますね
そのアイテムは、以前にゆうきが劇で使った魔法使いの帽子です。絵本の表紙でゆうきがかぶっている頭巾のようなものがその帽子です。魔法使いの帽子とは言っても、派手な魔法が使えるわけではありません。けれど、かぶれば「ききみみ頭巾」のように、動物たちと話ができる不思議な帽子なのです。
この作品の読み聞かせをすると、本当にたくさんの子どもたちがこの帽子を欲しがります。この帽子は、どこか遠い所にある摩訶不思議で特別な世界でなく、ちょっと手を伸ばせば届きそうなお隣にある(?)異世界に読者を導いてくれる身近なアイテム。だから、現実の世界と絵本の世界を自由に行き来できる子どもたちにとって、空とぶホウキや魔法の杖以上にワクワクする秘密の道具になっているのです。
秘密3:大人の読者の心をつかむ「ドキドキの秘密」
帽子に導かれ祖母の願いを叶えようと頑張るゆうきを、友だちやお母さんがサポートして、ついに七夕の夜にお婆ちゃんの夢は叶います。そのダンスシーンのなんと素敵なことでしょう!音楽が聞こえてきそうな場面で、お爺ちゃんを見つめるお婆ちゃんのまなざし、若き日の2人を思い出させてくれるその奇跡のシーンに、思わず涙するのは子どもたちだけではありません。
いいえ、むしろ大人たちの方が祖母の想いに感情移入して、思いがけない気持ちの高ぶりにドキドキしてしまうことでしょう。祖母と孫の交流を描いた優しい物語が、実は純愛小説のような側面を持つこと。これが大人をドキドキさせる秘密ポイントです。
さて、お話した3つの秘密以外にも、この作品では小さな秘密の仕掛けをみつけることができますので、描かれたどんな小さなものも見逃さずにご覧ください。七夕の季節には、そんな秘密を楽しみながら親子で絵本の魔法にかかってみてはいかがでしょう。
【書籍DATA】
たばた せいいち:作
価格:1404円
出版社:童心社
推奨年齢:5歳くらいから
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