しかし、最近ではもっと奥の深いところで、運動の健康増強メカニズムが分かりつつあります。具体的には、
- 老化で低下した「新しく神経を作る力」が、運動等によって再び活性化する
- 運動直後に筋肉から作られるマイオカイン(インターロイキン6等のサイトカイン)が、脂肪組織の細胞に作用し脂肪を分解し、また炎症抑制や血管新生に作用する
- わずか 10 分間の軽運動でも、注意・集中、判断、計画・行動能力などの認知機能をつかさどる脳の部位が活発になり、認知機能が高まる(世界で初めて科学的に確認)
などが挙げられるでしょう。
気持のよいエクササイズは健康維持のファーストステップ!
ご存じの通り、運動することによって調子が良くなる事実はいたるところにありました。今になってこのようなことが分かり始めてきたのは、実は色々な細胞どうしで情報交換やコミュニケーションをしている仕組みが、ようやく詳しく分かり始めてきたからです。
この仕組みの解明に拍車をかけたのが、細胞どうしのコミュニケーションに使われる、超微量のタンパク質を分析できる質量分析機(ノーベル賞受賞の島津製作所田中さんが貢献)や、iPS細胞に繋がる細胞分化の研究などです。
いろいろな分野と技術がかかわって初めて、分かり始めたというところが大変興味深いところです。
最新の研究による、運動の健康増強メカニズムの仕組み
1. 老化で低下した「新しく神経を作る力」が、運動等によって再び活性化する長年、死んでしまった脳細胞は再生しないと思われ続けてきました。しかし、20世紀後半になり、脳にも神経幹細胞という神経系細胞の基となる細胞が発見され、再生する可能性がある事が分かってきています。特に、記憶を司る海馬といわれる脳の一部分では、神経幹細胞によって常に神経再生が行われており、脳のリフレッシュに役立っている事が明らかになってきました (パソコンでも、メモリーを増設しないと必要なデータの保存能力が足りなくなるのと同じ)。
神経細胞の一番下にあるアストロサイト細胞は、Wnt(ウイント)という細胞内情報伝達アミノ酸を放出して、神経幹細胞を有効な神経細胞へ成長させます。最新の研究によって、アストロサイト細胞は、老化した脳内でも適度な運動の刺激によって、Wnt(ウイント)を増産し、その結果として神経新生機能が増すことが分かったということです。
2. 運動直後に筋肉から作られるマイオカインが、脂肪組織の細胞に作用し脂肪を分解し、また炎症抑制や血管新生に作用する
近年、運動器官である骨格筋から様々なサイトカインが産生されると報告され、マイオカイン(Myokine)と命名されています。マイオカインには インターロイキン6、7、15などが含まれており、骨格筋における脂質代謝、糖代謝、筋委縮の改善をはじめ、血管新生、肝グリコーゲンの分解促進、骨形成促進、白色脂肪の褐色脂肪化によるエネルギー消費の促進、膵臓におけるインスリン分泌促進など、健康増強効果に関わっていることが明らかになってきています。
3. わずか 10 分間の軽運動でも、注意・集中、判断、計画・行動能力などの認知機能をつかさどる脳の部位の活動が活発になり、認知機能が高まる(世界で初めて科学的に確認)
筑波大学と中央大学理工学部の共同研究グループは、脳の前頭前野が担う実行機能(注意・集中、判断、計画・行動を調節する高次認知機能)が短時間の低強度運動でも向上していることを、最新の光脳機能イメージング法を用いて確認し、誰にでも実行しやすい軽運動に気分や認知機能を高める効果があることを科学的に初めて裏付けました。
これらのように、科学的なメカニズムを明らかにすることで、効果的な運動スポーツの方法がより具体的に構築できることになります。
そして科学的なアプローチと、それに基づく実証的なプログラムの作成と実行は、高齢化社会における活力の維持を行うために、必須であるものに間違いないでしょう。
このような活動そのものが、革新的な新たな価値となることに間違いなく、今後はこの価値をいかに「現実的な」マネーに結び付けるかが、大きなビジネスチャンスになると考えられます。
<参考資料>
老化した神経幹細胞を活性化する環境因子の発見(産業技術総合研究所 幹細胞工学研究センター)
サルコペニアにおける骨格筋ミトコンドリア機能と Myokine の意義,日本老年医学会雑誌 49巻 2 号(2012:3)
軽い運動でも認知機能は高まる!
―短時間の軽運動でも高まる実行機能と脳内神経基盤の解明―
筑波大学、中央大学 平成26年5月 27 日