医療情報・ニュース/健康医療トリビア・豆知識

衛生面は大丈夫?詰め替えボトルの雑菌・洗い方

ボディソープ、シャンプー、リンスなどの家庭用詰め替えボトル。詰め替え時に、ボトルをきれいに洗う人と洗わない人がいるようです。メーカーは詰め替え時のボトル洗浄を推奨していますが、洗浄後の乾燥が不十分だと逆効果になってしまうことも……。詰め替え容器の洗い方、乾かし方など、正しい扱い方を解説します。

西園寺 克

執筆者:西園寺 克

医師 / 感染症・健康情報ガイド

詰め替えボトルは衛生的? 大事なのは洗い方よりも乾燥過程

詰め替えボトル

シャンプー、ボディーソープ、化粧水など、様々な詰め替え対応容器。ボトル内で雑菌が繁殖してしまう危険はないのでしょうか?

近年、エコや経済的な観点から、最初に買ったボトルを再利用して、中身を入れ替えるタイプの商品が増えています。お風呂でのボディソープ、シャンプー、リンスはもちろん、化粧水やクリーム、キッチンの食器用洗剤、洗濯時の衣類用洗剤。醤油を小分けして使うための醤油注ぎや、飲み物を分けて持ち歩く水筒なども、中身を詰め替えて使い続ける点では似ています。

中身が口に入れるものかどうかで、取り扱い時の感覚は大分変わってくるようですが、ボディソープなどを含む洗剤の場合は、仮に中に少し有害な雑菌などが混ざっていても、泡をすすぎ流す過程で薄まるため、医師としては正直あまり心配はいらないのではないかと思います。

醤油注ぎや水筒は、洗浄後にしっかり乾燥させる人の方が多いでしょう。実は細菌の繁殖を防ぐという点では、この「乾燥」という過程が重要。細菌が増殖するには、水分、養分、温度が必要なので、水分をしっかり乾燥させていれば、細菌の増殖は防げるのです。
 

乾燥させなければ大差なし? 洗浄回数による細菌数の違い

しかし毎日使う製品の場合、中の水分を軽くふき取るとしても完全に乾燥させるのは難しいものです。多くの人がしていそうな「洗浄はするが乾燥は完璧にしない」状態は危険なのか、考えてみましょう。

容器を濯いでも、一旦水を出しても少しの水分は内側に残ります。同じく雑菌も付着している可能性がありますが、何度か濯ぐとそれらの数はかなり減っていきます。

例えば500ml入りの容器の水をざっと濯いだとき、雑菌が含まれているかもしれない水分が中に5ml残ると仮定しましょう。ここにさらに清潔な水を入れて、捨てる作業を繰り返したとします。同じ動作を3回繰り返すと、5/500×5/500×5/500=1/1000000となり、100万分の1になります。もしも液体を入れていた容器中に微生物が増えていた場合、残っていた微生物の数も100万分の1になります。

しかし微生物は最初の数から増えていく特徴もあります。上記の手順で微量の微生物と水分が容器内に残っていて、2時間で2倍に増えていくと仮定しましょう。2時間後に2倍、4時間後に4倍、6時間後に8倍……と考えると、20時間後には約1000倍、40時間後には1024×1024で約100万倍となります。つまり詰め替えから2日間で100万倍になるということです。2時間という仮定が短いと考えて、細菌の増えるスピードを4時間で2倍として考えても、8日後には結局100万倍になってしまう計算です。容器を3回濯いでごく微量の微生物が残っていたとしても、一定時間すれば細菌はどうしても増殖してしまうのです。

ただ、詰め替え容器の細菌が原因での事故のニュースなどを聞かないことからもわかる通り、実際は洗浄しても洗浄しなくても詰め替えてから一定時間すれば大差なく、実際の人体への重大な影響はないと考えられます。
 

しっかり衛生的に保ちたい人は2つ以上の容器の準備を!

それでもやはり気になる人は、上記の濯ぎ作業に加えて、冒頭で書いたような乾燥の手順を加えましょう。菌数はさらに減らすことができます。毎日使うものは完全乾燥を待つのは不便なので、容器を2つ用意して、洗浄後に完全に乾燥させる時間を作れるようにすることが大切です。

念には念を入れたい方は、窓際や屋外で太陽光線に当ててしっかり乾燥させましょう。
 

人体への影響は?詰め替えボトルに雑菌が混入した場合

上記の菌の数以上に気になるのは、菌の種類かもしれません。毒性の強い菌の場合、数が少なくても感染したら一大事です。

しかし、実際のところ家庭内の詰め替えボトルにこれらが混入する可能性はほとんどないと考えられます。例えば、キッチン、洗面台、浴室にもともと住みついている微生物は、病原性があまり強くありません。「弱毒菌」と呼ばれる菌か、私たちの皮膚にいる「常在菌」です。これらの菌は病原性が弱いのはもちろん、侵襲力も強くありません。詰め替え時に容器内に混入したからといっても、日常的に身の回りで共存できている菌にすぎません。自宅の環境にいる菌の大部分は自分が持ち込んだ菌なので、恐ろしい病原性はないと考えて良いことになります。

ただし例外があります。それは指に傷がある時です。血液によって皮膚の常在菌が変化してしまうことがあります。中でも黄色ブドウ球菌は血液が大好きな菌です。シャンプーやリンス中では、栄養状態が悪くて増殖しにくいとされていますが、最近の製品は、アミノ酸やいろいろな天然物の抽出成分が添加してあって栄養豊富です。もしも混入すると増殖する可能性は十分あります。指に傷がある時は、念のために詰め替え作業を避けた方が良いでしょう。黄色ブドウ球菌は花粉症の人では鼻水に混入している可能性が高い菌です。花粉症の人は花粉症の時期には、詰め替え作業を避けた方が良いでしょう。
 

古いタイプは注意が必要? 公共の場の液体石鹸

最近は見かけなくなってきましたが、公共の手洗い場などで、円筒形の容器に入った緑の液体石鹸がよく見られる時代がありました。この液体石鹸は、残念ながら培養すると弱毒菌がいっぱいであることも少なくありません。病院では免疫力が落ちている人が多数いるので、以前勤務していた病院では、液体石鹸の容器をすべて外したことがあります。しばらくして「液体石鹸がない不潔な病院」という貴重な御意見を頂戴しましたが、実際は石鹸がある方が衛生的とは言えない状況だったのです。
 

医学的見地からの石鹸・シャンプー・リンス

詰め替えボトルの衛生面の話からすると、特にシャンプー類は神経質にならなくてもよいと考えます。頭皮は皮脂腺と汗腺が多い場所なので、体の中でも特にもともといる細菌数が多い部位です。髪の毛が長い場合、長さと比例ではなく長さの二乗で細菌数が増えると言われています。ロングヘアーの方は、少なくともシャンプーとリンスに関しては細菌感染の心配をする必要はないでしょう。

また、石鹸、シャンプー、リンス自体、医学的な衛生面の理由から必要なものではありません。これらは人類学の領域です。少なくとも髪を飾る風習は人類共通のもので、ギリシャ神話を含めて髪には霊的な意味が考えられていたようです。日本でも戦国時代、戦の前に神社に髪を奉納した記録があります。シャンプーをしなかったからといって、医師として警告しなければいけないほど髪が不衛生になるとは考えにくいのです。

最後に余談ですが、良いものがあると種類が減るという法則があります。特に医学の領域の外科的手術では、3つまで減るとされています。ドラッグストアに多数の石鹸、シャンプー、リンスがあること自体、万人に支持されるほどよい製品がまだ販売されていない証なのかもしれませんね。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます