ショック!悪者レスラー「ゴキブリマスク」はパパだった
学校の宿題でパパの仕事を調べることになった僕は、こっそりパパの車に乗り込みました。パパがどんな仕事をしているのかよく知らなかったからです。パパが向かった場所はプロレスの興行が行われている体育館。そこで見た悪役プロレスラー「ゴキブリマスク」こそ、大好きなパパのもう1つの姿でした……。この現実を受け入れられる?『パパのしごとはわるものです』
ゴキブリマスクはなんて卑怯なやつなのでしょう! ずるいことばかりして正義の味方ドラゴン・ジョージをいためつけます。その悪者がパパだと気づいた時、僕の心に激しい動揺が走ります。「悪いことばかりしていると立派な大人になれないんだぞ」と教えてくれたパパが、目の前で卑怯なことばかりしているのですから、心が乱れて当然です。一瞬にして崩れ去る父親への信頼と尊敬の念。主人公はそのやりきれない気持ちをどこにぶつけていいのかわからなかったに違いありません。そして父もまた、わが子が現実を知ってしまったことに気づきうろたえていたはずです。リングの上と下で交錯する父と子のそれぞれの感情が、緊張感をもって描かれていきます。
やがて試合はゴキブリマスクの大負けで幕を閉じます。父親の仕事をどうしても受け入れられない僕に、マスクを外したお父さんが語りかけます。「お客さんの笑顔のためにパパは頑張って悪いことをしているのだ」と。まだその意味を本当には理解できない僕ですが、「わからないけど、わかることにする」と答えました。そして痛くなかったかと聞かれた父も「痛いけど痛くないことにする」と笑うのでした。
どちらも男らしい親子ですね。理不尽に思えて納得しがたい現実をぐっと飲み込んで理解しようと努める主人公と、子どもを愛し嫌われ役であっても自分の仕事に誇りをもって取り組んでいる父親。親から子へ大切なことがしっかりと伝わっていることが感じられ胸が熱くなります。
ひょっとするとこの作品は、子どもたち以上に働くお父さんの心にじーんと響くのかもしれません。もしお父さんがお話の最後に登場する作文を読んだら、思わず涙をこぼしてしまうことでしょう。僕がお父さんの仕事について書いたこの作文こそが、主人公親子の関係を何より的確に物語っているように思います。どうぞハンカチを用意して(?)お読みください。
【書籍DATA】
板橋雅弘:作 吉田尚令:絵
価格:1404円
出版社:岩崎書店
推奨年齢:4歳くらいから
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