行政書士のハラスメント?
ハラスメントの中には、ドクハラ(ドクターハラスメント)、アカハラ(アカデミックハラスメント)のように職業と関連したハラスメントがあります。ある職業についている人が、知らない間に加害者になっていることもあるのです。ハラスメントと行政書士は全く無縁といえるのでしょうか。私は行政書士も加害者になる可能性があると思います。何気ない発言や行動が依頼者を傷つける可能性があるからです。
業務経験を積んでいくと慣れてきます。この経験は、貫録になり、実績となり、信頼へつながります。こうして専門家にとなっていくと思います。ただ、他方で、専門家となるということは一般人とかけ離れるということをも意味すると思います。
行政書士にとっては数十件のうち一件の出来事にすぎないとしても、依頼者にとっては生まれて初めて経験する出来事かもしれません。また、行政書士はもっとひどい案件を知っているかもしれませんが、依頼者は耐えがたい苦痛を感じているかもしれません。
このような行政書士と依頼者の「差」を認識せずに、行政書士が発言・行動をすると、依頼者を傷つけてしまう可能性があるのです。
私が感じた依頼者との温度差
経験によって慣れるということは、別の見方をすれば、感覚が鈍磨しているのです。この鈍磨が職業的なハラスメントの根源になっているのではないでしょうか。私がそう思うようになったのは自分の経験です。仕事において、その案件に対する依頼者との温度差を感じることが度々ありました。もちろん、協議離婚のように精神的にまいっているため敏感になっている依頼者や、逆に、会社設立や新規事業の立ち上げなどで精神的に高揚している依頼者もいて、普通の精神状態ではない方もいらっしゃいます。しかし、それだけでは説明できない依頼者との「差」を認識するようになりました。
それを感じるようになったのは、開業して5年くらいからだったと思います。その違和感をずっと感じながら、なぜだろうと考えていました。その対処法を考えていくうちに、誰でも知っている格言に行きつきました。
私にとっての金言
私は「初心忘るべからず」(世阿弥『花鑑』)という言葉を大切にしています。依頼者との「差」が生じていなかったころの自分を思い出し、その気持ちを取り戻して依頼者を接しなければならないと考えるからです。業務経験を積んで依頼者との間に知識や経験の「差」は生じました。しかし、その知識を依頼者に伝えるときにも、「依頼者の立場で考える」というフィルターを一度通してから、表現することが大切だと考えます。
業務経験を積む前は依頼者との「差」がそれほど生じていなかったためでしょうか、依頼者の立場で考えることが出来ていたのでしょう。
それを忘れないためにも、依頼者とお話をするときは、この金言を頭に浮かべてからお話をしています。これを実践するようになってから、温度差を感じることが少なくなったように感じます。
行政書士にとってもハラスメントは他人事ではないと考えるのです。