不動産売買の法律・制度/不動産売買の法制度

不動産ネット取引が本格議論、その利点とリスク(2ページ目)

インターネットによる不動産取引の実現に向け、国土交通省が動き出しました。重要事項説明や売買契約書の書面交付をネット経由で行なえるよう、規制緩和に踏み切ろうとしています。これにより不動産市場が活性化され、消費者の利便性の向上が期待されます。半面、なりすましなどのリスクにさらされ、トラブル拡大につながる可能性が指摘されています。ネット取引解禁には「明」と「暗」が混在しています。

平賀 功一

執筆者:平賀 功一

賢いマンション暮らしガイド


不動産業はクレーム産業 なりすましによる契約トラブルは最大の関心事 

イメージ写真

ネットならではのリスク。なりすましには最大の注意が不可欠

前ページでは不動産ネット取引の有用性を説明してきましたが、「明」があれば当然ながら「暗」もあります。最も心配されるのが、なりすましや架空業者による取引です。次のようなケースが思い浮かびます。

  • 手付金を指定口座に振り込んだら、持ち逃げされた。
  • 取引した宅建業者が無免許(ニセ業者)だった。
  • 実在しない、あるいは、第三者が所有権を有する不動産を契約させられてしまった。
  • 契約相手が複数存在し、二重契約させられた。
  • 重要事項説明を受けた宅建主任者が、実は無資格者だった。
  • 記名・押印した宅建主任者と重要事項を説明した宅建主任者が別人だった。
  • 電子メールによる契約書類のやり取りの際、送り先を間違えて誤送信。悪意の第三者が受け取り、個人情報などをネット上に流出されてしまった。

「書面で告知された日から8日間」という
クーリング・オフの規定が不明瞭になる恐れ

また、クーリング・オフの実効性に問題が生じる可能性もあります。

理由をいっさい問わず、買い主側から一方的に契約解除できるのがクーリング・オフの特徴ですが、その成立要件は「クーリング・オフの概要を書面で告知された日から8日間(告知された日を含む)」です。

対面による説明がなくなり、テレビ電話や電子メール、チャットなどでの契約行為に移行した場合、クーリング・オフの起算日が不明瞭にならないか心配です。電磁的方法による書面交付になれば、宅建業者は書面の受領をいったん確認した後、クーリング・オフの概要説明という手順になります。書面交付日と概要説明日が一致しないと、トラブルにつながる可能性があります。

さらに、「買い主が自ら希望して自宅または勤務先を契約締結の場所として申し出た場合、自宅や勤務先で締結された契約はクーリング・オフの対象外となる」規定も整理の必要性があるでしょう。「契約場所」という概念がなくなるため、ルール改正にまで踏み込まなければなりません。消費者保護に関係してくるため、慎重な議論が求められます。

そのうえ、住宅ローンの申込みとの兼ね合いにも不都合が生じるかもしれません。

せっかく契約行為がネット上ですべて完結しても、住宅ローンの申込みや契約のために金融機関へ出向くことになれば、利便性の向上は半減してしまいます。「それでも半分になるなら…」と前向きに捉えられればいいのですが、融資の手続きに時間を取られてしまうと、オンライン取引の魅力は薄れてしまいます。

☆印

 

以上、不動産ネット取引解禁の明暗について独自に考察してみました。私ガイドは賛成派ですが、クリアしなければならない課題も散見されます。

前述したように、メリットとデメリットの均衡を保ちながら、最適解を見つけ出さなければなりません。「明」と「暗」が入り混じった連立方程式を解く必要があります。それでも、苦労するだけの価値はあるでしょう。年内には一定の結論が出るということなので、その動向を見守りたいと思います。


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