住宅投資は内需の重要な柱。規制改革により脱デフレの実現を目指す。
国土交通省が今年4月下旬、不動産の売買や賃貸契約をインターネット経由で行なえるよう本格議論を開始しました。オンラインによるネット取引の解禁によって取引当事者の利便性を向上し、もって、不動産市場の活性化に資することを期待しています。
かつて、ピーク時の2000年には首都圏で年間およそ9万5600戸の新築マンションが供給されました。ところが、昨年2013年は約5万6500戸へと大幅ダウンし、首都圏新築マンションの市場規模は約3.8兆円から同2.8兆円へと26%強の縮小を余儀なくされました。
住宅投資は日本経済にとって、内需拡大の重要な成長エンジンです。デフレ脱却のチャンスをつかみかけている最中にあり、また、2020年には東京五輪の開催が決まっている今、規制緩和を推進し、旧来の不動産取引慣行を弾力運用することで、アベノミクスの第3の矢でもある成長戦略の軌道を鮮明化かつ具現化しなければなりません。
安倍政権が看板政策の1つである国家戦略特区を創設したのも、その目的は大胆な規制・制度改革を実行していくための突破口作りに他なりません。容積率や用途など、土地の利用規制を通じて居住を含む都市環境を整備し、日本を国際ビジネス拠点に育てようという野望が透けて見えます。
こうした施策の整備が進み、また、わが国が成熟社会を生き延びていくためには、規制改革は避けて通れません。その意味において、私ガイドは不動産のネット取引解禁は経済成長に大きなインパクトを与える契機として必要不可欠と考えています。オンライン取引の実現には賛成です。
ただ、利便性の追求にはリスクも伴います。メリットとデメリットの均衡を保ちながら、最適解を見つけ出さなければなりません。そこで、本稿では不動産ネット取引に内在する「明」と「暗」について考察してみることにします。
マンション投資の現場では、投資家が物件を見ないのは珍しくない
私ガイドは独立する前、不動産会社でマンションや建売り住宅の営業をしていました。投資家向けワンルームマンションを販売した経験もあり、その際、投資家は購入物件を自分の目で見ることなく契約するケースが多々ありました。不動産売買の安全をつかさどる宅建業法では、売買契約締結前に宅地建物取引主任者をして重要事項を説明するよう義務付けています。と同時に、高額取引だけにトラブルが発生しないよう、契約内容を書面化して相手方に交付することも法律で定めています。
しかし、物件案内を義務付けた条文はありません。宅建業者に課されているのは書面および口頭での説明だけです。そのため、地方在住の投資家が都心のマンションを購入する場合、あるいは、逆に都心在住の投資家が地方のワンルームを購入する場合も、物件を見に行く投資家は少数派でした。
私が投資家向けマンションの営業マンだったとき、地方在住の投資家が都心のワンルームを購入した場合、私(不動産会社)は地方にいる顧客のところまで出向いて契約していました。わざわざマンションの買い主が上京することは、めったにありませんでした。投資家の多くは、あたかもネットショッピングしているような感覚で契約書に押印していたのです。
おそらく、現在もマンション投資の現場では投資家が物件を見ないまま契約するのは珍しくないはずです。そう考えてみると、すでにネット取引に近い契約スタイルが定着していることになります。
銀行に来店しなくても、ネット専業銀行なら住宅ローンが借りられる
来店不要で住宅ローンが借りられるのが、ネット専業銀行の最大の魅力
読者の皆さんはネット取引の解禁について、どのような考えをお持ちですか?―― 私ガイドは実現性が高いと感じています。すでに類似の取引が行なわれており、実際、利用者の利便性向上に寄与しているからです。
2005年3月に不動産登記法が改正され、これまで登記完了後に交付されていた登記済証(=権利証)は12桁の暗証番号からなる「登記識別情報」に取って代わりました。新制度により、登記が完了したことを証明する「登記完了証」は買い主に交付されるものの、ペーパーレス化によって権利証そのものは発行されなくなりました。
しかし、ペーパーレス化(権利証の廃止)による大きな混乱は耳にしません。つまり、ネット取引解禁の不安は“慣れ”の問題に収れんされるのです。“案ずるより産むが易し”というわけです。対面販売を当然と思っていた発想そのものを転換できるかが、不動産ネット取引解禁の成否を分けることになります。
次ページでは、デメリットについても考察します。