ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Creators Vol.2 作曲家A.リッパ「成功の秘訣とは?」(2ページ目)

現在上演中の『アダムス・ファミリー』で日本初お目見えとなった作詞・作曲家、アンドリュー・リッパさん。東京公演直前の彼を独占取材し、『アダムス・ファミリー』の製作秘話から、ブロードウェイで成功する秘訣までをうかがいました。クリエイティブな仕事に興味のある方、必読のインタビューです!!*2017年、再演が決定しました!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


高校生でミュージカルに開眼

――さて、ここからはリッパさんのキャリアについてお聞かせ下さい。ミュージカルにはいつ、どのように興味を持ったのですか?
『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

「高校まで、僕は音楽が大好きで、学校の聖歌隊だとかユダヤ聖歌隊で歌っていましたが、ミュージカルには興味がありませんでした。それが10年生……16歳の時に、学校演劇で『パジャマ・ゲーム』を上演することになり、そのキャストに選ばれて、たちまちミュージカルというものに、「なぜチョコレートが好きなのか」と同じくらい、わけもなくミュージカルのとりこになってしまったんです。ミュージカルのレコードを集めたり関連本を読んだり、母が仕事で年に数回NYに行くので同行し、ブロードウェイショーを観たりしていました。そこまで好きになった理由が、今なら、ミュージカルというのが様々なアートの総合体だからじゃないかと思えます。文学でありビジュアルアートであり、映像を使えるという点では映像制作であり、演劇であり音楽であり詩であり衣裳デザイン……、そういった全ての要素を最良の形にまとめあげるということは、エベレストに昇るような困難なことですが、だからこそ成し遂げた時の達成感はひとしおです。その挑戦が面白くて、僕は今も続けているのです」

――高校時代にクリエーターを志したのですか?

「いえ、はじめは舞台の上にいたくて、俳優を目指していました。大学に在学中、仲のいい友達で、後に『Rent』や『Avenue Q』をプロデュースした奴がいるのですが、彼とミュージカルを書いていたら大学の先生がすごく励ましてくれて、“これからも作詞作曲を続けるべきだ”と言ってくれたんです。俳優修業が大変だったので、書くことはとても心を満たしてくれた。そんなことでだんだん方向性が定まってきました」

――アメリカでは、若いクリエーターはどうやってチャンスを掴むのでしょうか?

「私は若いソングライターたちのグループを主宰していて、彼らの作品が日の目を見られるよう機会を設けていますが、一般的には、特にNYではチャンスを掴むのは難しいことですね。でも、若手に機会を与えている機関もあります。僕自身、23歳の時にBMIミュージカルシアターワークショップという3年間の無料研修を受けることが出来、作品の書き方から他のコラボレーターたちとの付き合い方まで、様々なことを学ばせてもらいました。今でも感謝の気持ちでいっぱいです。

今も昔も姿勢は同じ

僕は常々若い人たちに言っているんです。“誰も君を、ミュージカルを書かせるために雇おうなんてことはしない。誰も君を知らないし、君のことを何とも思っちゃくれない。それなら君が彼らを振り向かせるんだ。まずは何か書くんだ”。実際、僕も作品を書き……『Wild Party』という作品ですが、それに一人のプロデューサーが目をとめ、100人の人を招待して見せてくれた。全くお金にはならなかったけれど、僕には情熱がありました。そうしたら、ある劇場が1週間リーディング公演をさせてくれるということになり、それをやったらさらに別の協力者が現れ、4年後にフル・ステージ版を上演するところまでこぎつけました。僕にとっては大成功です。信念と情熱を持っていたからこそ実現できたことです。
『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

学生たちにはいつも“自分が素晴らしいものを書けるんだと信じること。そして自分の作品を書くこと。そうしたら他の人たちがついてきてくれる”と言っています。実際、僕は今年50歳になりますが、この年齢でもそれをしなくてはいけません。『アダムス・ファミリー』はプロデューサーから“これをやらないか?”と声がかかって“イエス”と即答したという点で、例外的なケースです。これまでに“これをやらないか”と言われて断ったことは何度もあります。自分が本当にやる必要を感じられなければ、その仕事はできません。もしも、朝、目覚めて“やっぱり本当にこれをやらなきゃ”と思える作品を書くべきだ、というのが僕のアドバイスです。ハードだし、お金のかかる仕事ですからね」

――これまでに影響を受けた作曲家は?

「たくさんいますが、特に存命中の作曲家たちには、キャリアを築く上でお世話になりました。例えばスティーブン・シュワルツは僕の師匠であり、友人でもあります。彼は『Prince of Egypt』で僕を指揮者、ピアニストとして雇ってくれましたが、知りあううち、いい友人にもなれました。私のヒーロー的な存在としては、レナード・バーンスタイン。偉大な作曲家、指揮者であるだけでなく、彼は音楽の伝道師でもあり、1950~60年代に音楽番組をプロデュースし、全米にクラシック音楽を広めた人でもあります。僕はこの仕事を始めたときに“きちんと評価されたいなら、多くの肩書を持つべきではない”と言われ、作曲家として認められるまで作曲一本に絞ろうと思ってやって来ました。ようやくその時が来たと思い、今年から俳優復帰もするのですけれどね。バーンスタインも“作曲だけやっていればもっと偉大な人になれたのに”としばしば言われてきました。NYではそういうことを言う人が多いんですよ。この世はNOに満ちている(笑)。でも僕は(バーンスタインのように)自分のハートに正直でありたいと思っています」

――次回作を教えていただけますか?

「『The Man in the Ceiling(天井裏の男)』という新作を準備中です。Jules Feifferという有名な作家の小説が原作です。95年に初めてこの本を読んで5年後にジュールズに会い、“ミュージカル化していいですか?”と聞いたら“私の他の作品ならどれでもやってよろしいが、これだけはだめだ”と言うので、私も“他じゃだめなんです、これでないと”ということで話は終わりました。1年後に電話して“The Man~ですが、ミュージカル化されていますか?”と尋ねたら“いいや”というので“僕がやっていい?”“ダメだ”、それでまた終わり。毎年電話してたら、5年後に突然“いいよ、プロデューサーが見つかるなら”と言ってくれ、しばらくしてプロデューサーが見つかりました。作品を書きあげ、4週間前にNYで大きなプレゼンテーションをやり、資金を集めたところです。来年にはNY郊外の1,2か所で上演することになっていて、運が良ければ15年の末、それでなければ16年の頭にNYで上演できそうです。

漫画家になりたい少年の話で、僕自ら、彼の叔父を演じます。この叔父はミュージカル作家なのだけど失敗作ばかり。成功したためしがないけれど、あきらめずに書き続けていると言う設定で、“失敗は成功のもと”がテーマの作品です。失敗によって成功の仕方がわかる。子どもは大人に学び、大人もまた子供に学びます。9人という少人数キャストですが、僕自身、とても気に入っています。今はこの作品のことで頭がいっぱいなんですよ」

『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

このリッパさん、ひとたび質問を投げかけると30分はノンストップでいける!ほどの勢いで、熱く語ってくれる方。この情熱、そしてブロードウェイで成功した作品にも満足せず大きく手を入れるほどの「こだわり」こそが、クリエーターとして「誰も自分を知らない」状況から抜け出し、「自分を振り向かせ、仕事を依頼される」までに至る秘訣なのでしょう。その彼の『アダムス・ファミリー』最新バージョンを観ている私たちは、ブロードウェイ版の観客よりラッキーなのかも?! リッパさんの思い入れが尋常でない最新作『天井裏の男』も、そのうち日本で上演されないかな?とにわかに楽しみになってきました。

*公演情報*
アダムス・ファミリ―』2014年5月4~5日=KAAT神奈川芸術劇場、5月10~11日=オリックス劇場

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