金メダルの金属としてのお値段は9万7500円
そもそもの疑問は、金メダルは金(ゴールド)でできているのかということ。五輪関係者でなくとも察しはつくかと思いますが、もちろん純金製ではありません。1916年のベルリン大会以降、銀に金メッキのスタイルが定着しました。 『オリンピック憲章』によると、金メダルには「規格」があります。大きさは直径60mm以上、厚さ3mm以上。また、素材として重量の92.5%以上は銀を使うことと、6g以上の金メッキを施すことになっています。メダル全体の重量は年々増え、2018年の冬季五輪・平昌大会では586gと、2016年の夏季五輪・リオデジャネイロ大会の500gを大幅に更新しました。実際、平昌大会で「メダル、なんかデカくない?」と思った人は、気のせいではなく、本当にデカかったのです。
さて、今回の東京大会ですが、同大会の公式サイトによれば、五輪の金メダルの総重量は556g。世間の関心度はほぼゼロだったと思いますが、夏季大会としては記録を更新いたしました。気になる金の含有量ですが「純銀に6g以上の金メッキ」と記されています。「以上」というやや曖昧な表現に「7gや8gもあり得るのですか!?」と質問もしたくなりますが、過去の大会の例からも、おそらく規定ギリギリの6gジャストと推測されます。
この原稿を書いている時点(2021年7月29日16時現在)で、日本の金メダルの獲得数は13個。ただし、そのうち団体競技のソフトボールは登録選手数が15名ですから、これだけで大量15枚をゲット。また、卓球のミックスダブルスも2枚になるので、金メダルの枚数で言えば「28枚」となります。
つまりは6g×28枚=168gの金を獲得したことになります。金の小売価格1g/7086円(同年7月29日現在)で換算すると、119万448円。パラリンピックもありますので、今後「何枚」のメダルを獲得するかはわかりませんが、仮に100枚とすれば、これまでの日本選手、コーチやスタッフ、関係団体等の努力の報酬を金で推し量ると、少なくとも2021年の金価格では400万円以上にはなるはずです。
参考までに、今回の金メダルを金属としての価格で見ると9万7500円ほど。銀メダルは約5万5000円。銅メダルは、当然ほぼ銅(95%、残り亜鉛)でできていますが、価格は100g/106円と大変リーズナブルなので、計算すると430円ほどということになります。
金メダル=大手企業の生涯賃金!?
金メダルの価格的価値を、メタルの含有量だけで見てみましたが、なにせ五輪の金メダルですから、付加価値はスゴイはずです。ただし、なかなか売っていません。そこで、本来の値段を考える上で、2つの観点から考察してみましょう。まず、メダルそのものの市場価格という観点。実は、自分が獲得した金メダルを売却した人は、わずかですがいるのです。アメリカの雑誌『TIME』は、そんなアスリートたち10人を取り上げています。
その中でとりわけ高額だったのは、1996年のアトランタ大会でボクシング男子スーパーヘビー級の金メダルを獲得したウクライナ代表ウラジミール・クリチコ氏。16年後の2012年、オークションに出品して100万米ドル(約1億円)で落札されました。そして、売却金はすべて自国の教育基金に寄附したとのこと。ただし、クリチコさんの価格は破格であって、よほどの有名選手でなければ、過去の例から見て、相場は500万~1000万円といったところです。
もうひとつ、付加価値を知る手段が、金メダル選手への報酬金です。東京五輪では、金メダル1個につき報奨金としてJOC(日本オリンピック委員会)から500万円(非課税)が渡されます。実は、2016年のリオ五輪は1000万円でしたから、50%OFFというクリアランスセール並みの引き下げとなりました。
ただし、実際はそれ以外にも各連盟、所属団体、契約スポンサーから報奨金が出るのが一般的。お高いところだと、自転車競技が日本競輪選手会から3000万円、陸上競技が日本陸連から2000万円(ただしリレー競技は各選手に半額)、他にバドミントン、馬術、卓球などは1000万円。一方、安い競技では体操が50万円、さらに日本水泳連盟と全日本柔道連盟にいたっては原則、報奨金は「なし」なのだとか……。
さらに言うと、変なことで足を踏み外さなければ、金メダリストとして仕事には困らないはずです。とくにメジャーな競技なら、指導者やスポーツキャスターとして、講演やテレビ解説もあるでしょう。そうなると、金メダルを首にかけた瞬間、少なくとも大手企業のサラリーマンの生涯賃金=2~3億円くらいの価値は手にしたのかもしれません。