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もっと知りたい!イームズのシェルチェア(3ページ目)

一見同じデザインにも関わらず、様々なブランドから異なる素材で色んな価格で売られている、プラスチック製の椅子があります。今回は、皆さんも一度はご覧になったことのある、イームズのシェルチェアについて、歴史の面から素材の変容についてお話しします。

土橋 陽子

執筆者:土橋 陽子

家具・インテリアコーディネートガイド


イームズシェルチェアが誕生した頃の時代背景

・戦争で得た新素材・技術の平和利用が背景

この椅子が生まれた背景には戦争で得た新素材・技術の平和利用という別の面もありました。当時は第二次世界大戦後の爆発的な人口増加に伴い、安価で軽量で大量生産の可能な、若い家族に受け入れられるモダンな家具が必要でした。

1948年にニューヨーク近代美術館が開催した『ローコスト家具デザイン国際コンペティション』に、イームズ夫妻は金属製の作品を出品し、2位に終わります。実は、これがシェルチェアの原型と言われています。
 

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チャールズ&レイ・イームズ夫妻/ハーマンミラー提供

・アイデアはそのままに、素材をかえて
イームズ夫妻は、アームと本体の両方が一体型シェルで出来た椅子というアイデア、すなわち個別の部品や製造工程の数が非常に少ないため、その分のコストがかからないデザインの椅子を作るというアイデアに立ち戻ります。
*新建築社『CARIFORNIA DESIGN カリフォルニア・デザイン1930-1965-モダン・リヴィングの起源』P.188より抜粋



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従来の湿式プロセス/ハーマンミラー

そこで、取り入れられたのが航空機やミサイルの部品を作るのに使われていたFRPでした。FRPとはシート状になったガラス繊維を、液体状のプラスチックに浸しながら型に積層していく作り方(湿式プロセス)を言います。*FRPは、ファイバーグラス、グラスファイバー等、メーカーによって呼び名は異なりますが同じ類いのものです。


 

夫妻は、まずは有名な車体メーカーのジョン・ウィルス社に頼み、ファイバーグラスで椅子の模型を作ってもらい、それを元に航空企業のゼニス・プラスティック社で、成形ファイバーグラスのシェルを大量生産する方法を開発します。

二人は、“素材そのものが主役となること”を望みました。その結果クッションもカバーないシェルチェアが完成したのです。


アイデアはそのままに、時代と共に進化する素材

イームズ夫妻は常に、新しい技術や素材に対して好奇心を以てデザインに取り入れてきました。ハーマンミラー(米)はイームズの遺志を尊重して、環境問題に対する世の中の動きや、従来の素材の新技術での作り方、新素材をシェルチェアに取り入れて進化させ続けています。イームズ オフィス(米)公認のオリジナルと呼ばれるのは昔も今もハーマンミラー社(米)ただひとつとなります。

A.1949年-1989年/ファイバーグラス製/ハーマンミラー社
ハーマンミラー社(米)が唯一、イームズオフィス公認のイームズシェルチェアを製造しています。*ヨーロッパ圏はヴィトラ社(独)
ゼニス・プラスチックス社がハーマンミラーのために製造しました。この頃に作られた、ハーマンミラー社のロゴのエンボスが入ったFRPの素材のものが、希少価値のある“ヴィンテージ”として現在も市場に出回っています。

エンボスのありなし、文字の種類、シェルの形、ファイバーの量などなど年代によって 多くのバリエーションがあります。 当時の製造工程と、リサイクルが出来ないという環境の問題点から1989年(日本では1997年)に製造中止となりました。

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ハーマンミラーのイームズシェルチェア/ハーマンミラー


B.2000年~現在/ポリプロピレン製/ハーマンミラー社
100%リサイクル可能な素材であるポリプロピレン製のイームズプラスチックシェルチェアとして再度販売を開始しました。柔軟性の高さと、優しい色合い、ツヤの無いマットな仕上がりが特徴です。2000年にリリースされ、現在も販売されています。

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ポリプロピレン製のイームズシェルチェア/ハーマンミラー


C.2013年~現在/ウッド製/ハーマンミラー社
イームズ夫妻が1940年代に取り組んだ際には実現できなかった、木製の一体成型は、現代のウッド素材の3D成型技術を用いる事によって、ハーマンミラーにて製品化に成功しました。彼らが重視した素材を生かすという意図を深く尊重した上で、柔軟性のある背もたれや、十分な深さを備えた座面、正面のエッジは下向きにカーブしている滑らかなラインをもった、新しくもどこか懐かしい佇まいをしています。2013年にリリースされ、現在も販売されています。

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イームズウッドシェルチェア/ハーマンミラー


D.2014年~現在/ファイバーグラス製/ハーマンミラー社
ハーマンミラー社はイームズ夫妻の遺志を受け継ぎ、その時代に合った新しい素材、製造工程を常に探求しています。オリジナルにより忠実な素材で、現代のニーズにあった製造工程を独自に新開発したことで、ハーマンミラーは1950年に製品化されたイームズシェルファイバーグラスチェアを、再び安全に製造できるようになりました。ヴィンテージカラー8色の展開のシェルチェアが、2014年4月にリリースされたばかりです。
 

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予約販売が始まった当時の、ハーマンミラーストアのディスプレイ。壁のグラフィックは1963年にイームズオフィスがデザインした”BEWARE OF IMITATIONS”

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イームズファイバーグラスチェア/ハーマンミラー


いかがでしたか?優れたデザインの継承って奥深いですよね。購入して大事に使っていくことで、時代を超えて素敵なライフスタイルをつないでいくことができると思うとロマンがあります。ジェネリック製品と比べると高価ではありますが、イームズのデザインを後世に残していく活動の一環を担う椅子を持つ喜びは格別なものになるでしょう。

次ページに正規ライセンスを持つシェルチェアの購入できる直営店の情報をまとめておきます。
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