懐石は、おもてなし料理の変革
懐石は、茶事の中での食事。濃茶をおいしくいただくために供されます。
(画像提供/和の心)
*『日本料理の歴史』では、料理店で出される懐石風という意味で懐石料理、料理店の茶の湯とは関係のない料理は「会席料理」と区別されています。
懐石は、千利休が安土桃山時代に考案したとされています。一般的に「懐石」と聞くと、高級な料亭でいただく贅を尽くした豪華なお料理、厳しい作法がつきものというイメージをだく方が多いのではないかと思います。
確かに、料亭ではない茶の湯の世界で、お客様をおもてなしする茶事というイベントをする際には、懐石をいただく作法があります。しかし歴史をひもとくと、たんなる儀式優先の部分を排除し、お客様においしく召し上がっていただくことを主眼にした、おもてなしの心が形になったものなのです。
懐石以前のおもてなしというと、平安時代には宮中行事や貴族のための大饗料理、また室町時代には将軍家を中心とする武家等特権階級のための本膳料理がありました。こうした料理は、複雑な儀式があり、また料理は食べきれないほどに食卓に並ぶ、あるいはいくつもの膳が運ばれてくるものでした。
これに対して懐石は、膳が一つで、一つの料理が食べ終えると、次の料理を持ち出すというスタイル。今では、レストランや料理屋さんで、一品ずつサービスされ、冷たい料理は冷たく、熱い料理は熱く提供されるのは当たり前なのですが、当時としてはおもてなしの変革ともいうべきものでした。
またごはんや菜は、大きな器に人数分盛り込み、お客様が自から取り分けるなど、サービスの手間や器も無駄を省き、亭主ができるだけ合理的にもてなしをできるように配慮されています。