常に新しい自分と出会っていきたい
――これまで本当に沢山の舞台で色々な役を演じられましたが、ターニングポイントと言うとどの作品でしょうか?保坂
いくつかあるんですが、最初にそれを強く意識したのは24、5歳の時に演じた『ウエストサイド物語』のアニタですね。この時はマリアとアニタの二役にキャスティングされていたのですが、自分の中でどうしてもアニタ=凄くしっかりした大人の女性=まだ自分には出来ないって思いが強くなって「私がやったら学芸会になっちゃいます。」って言っちゃったんです。
――え、それは凄いです。
保坂
ねー(笑)。そうしたら「『ウエストサイド物語』は10代の少年少女の話なんだよ。彼らの年齢を考えたらアニタだって決して成熟した大人じゃない。」って。それで確かにそうだなって思えて、更に実際に演じてみたらアニタという役が凄く自分にフィットしたんですね。その経験があってから新しい作品や役と出会って台本を読んだ時に「ん、これ……大丈夫かな?」って第一印象で感じても、決めつけないでまずはやってみよう、トライしてみよう……新しい自分と出会ってみようって思えるようになりましたね。
「カッコいい!」という言葉が誰より似合います
辛い綱渡りの先に見える「光」。ミュージカルとストレートプレイ
――今後演じてみたい役や作品がありましたら教えて下さい。保坂
これからもミュージカル作品に参加させて頂きつつ、出来れば年に1、2本位のペースでストレートプレイにもトライできたらと思っています。基本的にはミュージカルもストレートプレイも同じだと思うのですが、覚えたりやらなければいけない事が多い分、ミュージカルは音楽や歌、ダンスに助けて貰える所もあるんですね。でも言葉しかないストレートプレイは逃げ場がないというか、頼れるものがないというか……。それはある意味とても怖い、まるで綱渡りみたいな感覚なんです。でもそこを歩いて行った先に光が見える感じ……苦しいけれどやって良かったな、と思える。決して楽ではないですが、これからも挑戦していきたいですね。
――本作『ピトレスク』のタマラ役も保坂さんにとっては1つの挑戦ですね。
保坂
そうですね、自分の知らなかった自分との新しい出会い……何せタマラは「頽廃的」な人ですから(笑顔)。世の中を憂いている所や、他の皆と少し離れた場所から状況を見るという点では『李香蘭』の川島芳子と通じる部分もありますが、同じ方向性、同じ人にするつもりは全くありません。小林さんが私の新しい面を引き出してくれると信じてこの役と向き合っています。
劇団四季在団中は『キャッツ』 『コーラスライン』 『ウエストサイド物語』 『クレイジー・フォー・ユー』 『アスペクツ・オブ・ラブ』 『マンマ・ミーア!』 『オンディーヌ』等数多くの作品に出演し、2006年の退団後も『デュエット』 『パイレート・クイーン』 『スーザンを探して』 『地獄のオルフェウス』 『エニシング・ゴーズ』等の作品で活躍する保坂知寿さん。
ガイドが初めて保坂さんの舞台を観たのは1983年『キャッツ』の初演時。終演後、両親と帰途につきながら「凄かった! カッコ良かった!」と興奮しながら口走っていた事を今でも思い出します。自分の人生に光が宿ったと実感した夜でした。劇団在団中も退団後も時に凛として舞台の中央に立ち、時に抜群のコメディセンスで客席を沸かせる保坂知寿さんが本作・タマラ役ではどんな新しい面を観客に魅せてくれるのか、心から楽しみに客席に座りたいと思います。
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