息をもつかせぬ、スピードスターの決戦
「高松宮記念」
競馬のレースにおいて、もっとも高い格付けが「G1」。G1レースは、年齢や距離ごとで様々に行われ、各カテゴリにおけるチャンピオンを決めていきます。中央競馬(JRA)のG1レースは、1200m~3200mの距離で争われます(※コース上の障害物を飛越する障害レースは、さらに長い距離で行われます)。その中で、最短距離となる1200mのレースは「スプリント」という区分にあたり、この距離を得意とする馬たちは「スプリンター」と呼ばれます。スプリンターは、いわば「競馬界のスピード自慢」ですね。
そのスピード自慢たちが集うスプリントG1が、3月末に行われます。4歳以上の馬たちが出走する高松宮記念(芝1200m、中京競馬場)です。
競走馬が芝1200mを走るのに要する時間は、およそ70秒弱。人間の100m走と同様、一瞬のミスも命取りで、見ているこちらも息を止めてしまう迫力があります。私も高松宮記念のゴール後は、いつもハアハアと呼吸が乱れます。
一気に階段を駆け上がった快速馬ショウナンカンプ
高松宮記念の歴史の中で、特に印象に残っているのは2002年。前年の覇者であるトロットスターが1番人気に推される中、圧倒的なスピードを見せたのは、スプリント界に現れた新星・ショウナンカンプでした。このレースの前年にデビューしたショウナンカンプは、高松宮記念の約2ヶ月前まで、砂主体のダートレースで勝ったり負けたりを繰り返していました。脚元が弱く、よりスピードの出る芝コースはダメージが心配だったためです。しかし、成長とともにその不安がなくなると、満を持して芝の1200m戦に出走。スタートから終始先頭のまま逃げ切って圧勝すると、次走の芝1200m戦をまたも圧勝。そしてG1初挑戦となった高松宮記念でも、実績馬を相手に、スタートから一度も他馬に抜かれることなく、逃げ切り勝ちを収めました。圧倒的なスピードで押し切るそのレースぶりだけでなく、スターダムにのし上がるスピードもケタ外れの馬だったといえます。
ショウナンカンプがこれほどのスピードを持っていたのも無理はありません。同馬の父は、1993年~1994年のスプリント界を席巻したサクラバクシンオー。歴代トップクラスのスピードを持つと言われる、この偉大な父の血を受け継いでいたのでした。
小細工なしの真っ向勝負。「付いてこれるものなら付いてこい」と言わんばかりのショウナンカンプのレースぶり。その姿を見て「ああ、自分もそんな男になりたい」と嘆いたものでした。
ちなみに、1200mから400m伸びた1600mは「マイル」という区分になり、その距離を得意とする馬は「マイラー」と表現されます。1200m~3200mのG1レースがある中で、400mの距離は「わずか」に見えますが、これがそうでもありません。実際、スプリントとマイルの両方でG1を勝つのは容易ではなく、見方を変えれば、スプリンターたちの持つスピードは、それほど突き詰められたものといえるでしょう。