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デンタルケア:「犬の歯について学ぶ」編(3ページ目)

昨今では人間同様、犬達も歯周病に悩まされるケースが多くなっています。放っておけば大きな病気につながってしまうことも。犬の歯について知ることで、歯磨きの大切さがよくわかります。

大塚 良重

執筆者:大塚 良重

犬ガイド

歯の構造自体は人間と同じ

犬の歯の構造
歯の構造や歯周組織自体は、犬の歯も人間の歯も同じ。
「形状などは違いますが、実は歯の構造や歯の周りの組織そのものは人間と同じなんですよ。ですから、この構造を知っておくということは、飼い主さんご自身のデンタルケアにも役立つと思いますし、また、自分自身の歯のことを考えれば、愛犬の歯についてももっと理解が深まるのではないでしょうか」(藤田先生)

歯の一番外側を覆っているのはエナメル質。これは一度欠けてしまうと再生ができません。その下にあるのが象牙質で、ここはたいへん細かい穴が開いていて、エナメル質が欠けてしまった場合など、そこから知覚過敏になることもあります。さらにその下には神経や血管が通っている歯髄があります。

歯を支えている歯周組織のほうはというと、外から見えているのは歯肉。その内側では、歯の表面をセメント質が覆い、そのセメント質と、歯を支えている骨である歯槽骨との間を歯根膜がつないでいます。歯槽骨というのは、上顎と下顎の中でそれぞれ歯を支えている部分を表すのみで、この名をもつ特殊な骨が存在するというわけではありません。

犬は虫歯になりにくい

次に、口の中のpH(ペーハー)について。人間と犬とでは、このpHが違うのです。人間の場合はpH6.5~7の弱酸性であるのに対して、犬ではpH8~8.5のアルカリ性。犬は虫歯になりにくいと言われますが、その理由の一つが、口腔内がアルカリ性であるということ。その分、虫歯菌が繁殖しにくいのです。

また、前のページで説明したように歯の形状が薄く尖っているということが、虫歯菌をたまりにくくもしています。

加えて、犬の唾液中にはデンプンを糖に分解する時に必要なアミラーゼという酵素がないということも、虫歯が少ないことの理由になります。口の中の炭水化物(糖質)が歯垢の中に存在する細菌によって発酵し、酸を作り出すことで歯の組織を破壊、虫歯となるわけですが、アミラーゼがないので、犬の口の中には糖がそれほどないということになります。

以上のような理由で、犬は虫歯にはなりにくいのです。

歯の健康は、体全体の健康と関連性があり

本来、口の中には400~500種類の細菌が存在し、歯垢1gにつき約1000億個の細菌数になります。その数にびっくりしますね。その他、食べカスや被毛などの異物、ウィルスなどが存在することもあります。これではしょっちゅう病気になりそうなものですが、そうならないのは何故か。それは、体の防御機構がちゃんと働いているからです。

例えば、唾液中に含まれるラクトフェリンやリゾチームなどには抗菌作用がありますし、同じく唾液中の免疫グロブリンであるIgAは細菌の活動を鈍らせたり、毒素を中和する働きをします。口の中だけに限らず、免疫システムを担う白血球の一種である好中球やマクロファージといった免疫担当細胞は、体の中に進入してきた細菌やウィルスを取り込んで消化する作用(食作用)をもっています。

こうした働きによって、口の中に細菌やウィルスがあっても、病気にならないように自分の体を守っているわけですが、それも口腔内の衛生や体の防御システムが健全に保たれていればこそ。このどちらかがひとたび崩れると、病気の進入を許してしまうことになり兼ねません。その代表的なものが、歯周病。

なんでも口にしちゃうタイプのコは歯周病になりにくい?

「最近では、歯周病というのは歯だけの問題ではなく、内臓疾患などが影響して体全体の免疫力が落ちることで歯周病が進行する、と考えられるようになってきています。面白い話があるんですが、口が“綺麗”なコより、食い気がたっぷりで、オモチャでも何でも口にしちゃうような少々やんちゃなタイプのコのほうが歯周病にはなりにくいのではないかと考えることができます。それは、その分、唾液の分泌も盛んなわけですから、唾液中の殺菌効果により、口腔内の自浄作用効果が期待できるからです」(藤田先生)

このように、歯周病とは、歯だけの問題ではなく、体全体のことと相互作用し合っているものなのですね。加えて、ある意味では、そのコの性格も影響してくる部分があるということです。こう考えると、歯周病というのは、奥の深い病気だということです。

では、その歯周病とはどんな病気なのでしょう? それについては、また次回に、引き続き藤田先生に解説して頂きます。合わせて、歯周病が進行するとどういうことになるのか、その治療法などもご紹介します。


【関連記事】
デンタルケア:「歯周病と、その治療法」編(第2回目)
デンタルケア:「歯周病予防と、歯磨き」編(第3回目最終回)

【プロフィール】
藤田桂一先生/フジタ動物病院院長、獣医学博士
1985年日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)大学院獣医学研究科修士課程修了。1988年、フジタ動物病院を開院。2000年、「猫歯肉口内炎に関する獣医歯科学的研究」において獣医学博士号を取得。日本小動物歯科研究会の理事でもある。

【関連サイト】
フジタ動物病院(患者さんの立場に立った医療を信条とし、特に歯科医療分野に力を入れている)

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