舞台は1940年代のベルリン 政治に翻弄される映画人と
政治に取り憑かれたナチス高官たちの物語
◆あらすじ1940年代のドイツ・ベルリン。ヒトラー内閣がプロパガンダの為に作った宣伝省の初代大臣であるパウル・ヨーゼフ・ゲッベルズ。彼は全ての芸術とメディアを監視検閲する権利を与えられていた。ある日ゲッベルズは映画関係者たちを自宅に呼んでホームパーティーを開く。パーティーにやってきた映画人たちの前でゲッベルズは彼らを招いた本当の理由を発表する。彼は最高のスタッフとキャストを使い、自分の理想の映画……ドイツ全国民が誇れる「国民の映画」を作ろうと考えていたのだった。
登場人物は12名(+ピアノ演奏・荻野清子)。舞台転換は一切なく、実際の時間の流れと物語の時間の経過が同じというスタイルで進行していきます。
まずはゲッベルズ役の小日向文世さんがとにかく素晴らしい! 映画を心から愛し、その映画に最後まで愛して貰えなかった男の悲哀と政治家としての冷酷さ、女性にだらしない一面、滲み出る器の小ささ等、人間と云うのはこんなにも多面的で複雑な生き物であるのだと突きつけられる緻密な演技に心が震えます。
そのゲッベルズが”月”だとしたら、”太陽”のような存在のゲーリングを演じる渡辺徹さん。三谷作品には初参加ですが、現場のムードメーカー的な存在になっているという普段のキャラクター通り、登場するだけで舞台上の空気がぱぁーっと明るくなる雰囲気がとても魅力的。(勿論、ゲーリングも笑顔の裏に色々と問題を抱えている訳ですが……。)
同じく三谷作品初参加、本作では新進女優のエルザを演じる元AKB48の秋元才加さん。初演で同役を演じた吉田羊さんが常に肚に一物を抱えている野心満々の人物像を作っていたのに比べると、ある種その場その場の雰囲気で行動する天然の人という感じで、とても自然に観る事が出来ました。華もあり、舞台映えする姿が目を引きます。
(撮影:阿部章仁)
1つ目は上に書いたエルザのキャラクター。2つ目はゲッベルズの家に上がり込み何かを探る、ヒトラー内閣の親衛隊長・ヒムラー(段田安則)がより明確&印象的に「害虫と言ってもそれは人間の都合。虫に罪はない。」というモードを前面に押し出していたこと。これにより、後半の展開に深みが増したと感じました。そして3つ目は国民的女優であるツァラ・レアンダー(シルビア・グラブ)の二幕の演技。彼女の何気ない一言から物語は急展開を迎える訳ですが、初演ではその言葉によって招いた事態に対し、比較的あっさりしている様に見えたツァラが、今回の再演ではその事の重みをしっかり受け止め、終盤の行動に繋げていたように感じられ、全ての流れがより深い場所にすとんと落ちて来ました。
初演に続き今回の再演でもゲッベルズの屋敷の執事・フリッツを演じる小林隆さん。三谷幸喜さん主宰の「東京サンシャインボーイズ」出身という事もあり、三谷作品には舞台、映像共に数多く出演なさっている小林さんですが、フリッツという役は本当にハマり役だと思います。台詞のニュアンスや表情は勿論、執事としての細かな動きや息遣いも全て繊細に表現していて、この物語の外でもフリッツという人間がどういう人生を歩んできたのかがふっと見えるようでした。小林さんがこの役に瑞々しい命を吹き込んだことが、本作が成功している大きな要因の1つではないでしょうか。
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