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群像劇の傑作! 三谷幸喜『国民の映画』開幕リポート(2ページ目)

2011年3月、東日本大震災のさなかにPARCO劇場で幕を開け、辛い状況の中で上演を続けて、翌年には多くの演劇賞を受賞した三谷幸喜 作・演出『国民の映画』。あれから3年、新たなキャストを迎え、更にパワーアップして帰ってきた本作を演劇ガイド・上村由紀子がレビュー形式でリポートします。

上村 由紀子

執筆者:上村 由紀子

演劇ガイド

演劇に必要なすべての要素が幸福な化学反応を起こしている群像劇の傑作

国民

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)
 

常人には理解できない数式のように緻密に計算され尽くした戯曲と、一瞬たりとも気を抜けない繊細な演出。それを体現する俳優たちは自分の役を完璧に演じつつ、他の共演者と濃密なキャッチボールを続けていく。まるで不安定なつり橋の上で”落としたら終了”のジェンガを続けているかのようなえも言われぬ緊張感。と、その緊張感を壊すように要所要所で挟まれる「笑い」。

たった一晩……約3時間のホームパーティーの始まる前と終った後で、そこにいる全員の運命が大きく変わってしまう。そして静かでありながらとても強い印象を残すあのラストシーン。本作『国民の映画』は決して全てがクリアになり、明るい気持ちだけで劇場を後に出来るというタイプの作品ではありませんが、ガイドはこの10年を代表する舞台の1本だと感じました。

人間が持つ多面性をここまで明確に提示し、ある種の残酷さを目の前に突き付けられているのに胸の中には暖かく小さな炎もちゃんと息づいている。カーテンコールで一瞬だけ再現される、皆が幸せだった瞬間は、それが崩れた後に見せられると何とも言えない切なさを感じます。正に三谷作品の真骨頂。

国民

(撮影:阿部章仁)


国民

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


この舞台の初演は2011年3月。被災地の甚大な被害を思えば当然の事ですが、3.11後、首都圏の劇場もそれまでとは状況が一変しました。予定していた公演を中止するカンパニー、”劇場の灯りを消してはいけない”と敢えて上演を続けた集団……一時期は電車の本数も減り、”節電”の合言葉と共に街や駅も暗くなって、劇場が使う電気の使用量に対して議論が起きた事もありました。そしてあの時、舞台に関わる誰もが考えた「演劇に出来る事って一体何だろう」という大きな宿題の答えは未だ明確になっていないように思います。

実はエンターテイメントでもある演劇に対して「~べき」という言葉はあまり使いたくないのですが、やはり本作『国民の映画』は「今、この時代に観るべき舞台」として沢山の方に劇場で体感して頂きたいと感じています。この作品はあなたの人生の宿題を解く1つの鍵になるかもしれません。

◆『国民の映画』
2014年2月8日 (土) ~2014年3月9日 (日)  PARCO劇場
作・演出 三谷幸喜

出演 小日向文世 段田安則 渡辺徹 吉田羊 シルビア・グラブ 新妻聖子
今井朋彦 小林隆 平岳大 秋元才加 小林勝也 風間杜夫

大阪、愛知、福岡公演あり  →公式HP

All About関連記事 → 『劇場へGO!2014年1~2月演劇ガイドお薦め舞台』
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