災害の跡は地名にある
今回紹介する「災害・崩壊・津波_地名解」は、過去に自然災害が起きた可能性が高いと思われる「災害地名」をざっと100近く取り上げ、その地名がつけられるにいたる由来を解説しています。著者は宮城県生まれで現在も同県に在住。出てくる地名の多くは宮城県内のものですが、同様の地名は全国各地にあり、「その地を災害が襲った過去があるか?」をひもとくヒントとして活用できます。「川底(かつては川の底にあった土地)」「大崩(おおくずれ、または、おおくずし。付近一帯の地質が崩れやすい)」などは、特段の予備知識がなくてもヤバそうな名前だとわかります。取り上げられているほとんどの地名は、一見しただけでは災害が連想できない地名です。
読み方だけではわからない
例えば「いかり」。川のそばに多く見られる地名で、怒る(いかる)から転じており、「洪水等によりたびたび被害を受ける地、水はけの悪い地を」指します。漢字表記は「碇」だったり「猪狩」「五十里」等。港があった、イノシシを狩れた等と思う人はあっても、まさか「いかる」から転じた「いかり」の当て字だとすぐさま見破れる人は少ないでしょう。関西の人にはおなじみの地名である「梅田」もそうです。「梅田」はもとは「埋め田」。「埋め」のような嫌われる表現を松竹梅の「梅」のように印象の良い文字に置き換える事を佳字や好字といいます。他にも、崖地に多く見られる地名である「欠き」を「柿」と表現する等の例があります。ちなみに大阪の「梅田」は低湿地帯であった土地を埋めて田んぼにしたという説が有力です。
災害地名は地歴を知るヒント
他にも多くの地名が採録されていますが、そのバラエティさに戸惑い、どんな地名に住んでいいのやら悩んでしまいそうです。しかし、本書に取り上げられている地名が全て過去に災害があった地名であるとは限りません。梅や柿がよく取れた土地に「梅」や「柿」が使われている例だってあるでしょう。実際の所は、地名を手掛かりにしてその地の歴史や古地図からひもとくしかありません。今回取り上げられている地名の多くは宮城県のもので、都心部ではあまり見かけない地名が多くあります。だからといって宮城県が災害の多いエリアというのは早計で、災害地名が多いのは、都心部に比べて開発されているエリアが比較的少なく、古くからの地名が多く残っているからと考える方が妥当でしょう。
むしろ「××が丘」「○○台」といった土地の歴史や風土とは何の関係もない地名が多くある都心部の方が「災害があったかどうかの手掛かり」が失われており危険であるとも考えられます。
古くからの地名を変更する事は、ノスタルジーが失われる以外にも、過去の災害が地名に残した伝言を消してしまう弊害がありそうです。