産後クライシスの引き金を引くのは夫だけではない

産後クライシス

産後クライシスは誰にでも起こる

NHKの朝の情報番組をきっかけとして、「産後クライシス」という言葉が話題になり、取材班が著した書籍まで売れている。その書籍では、「産後、夫婦の愛情が急速に冷え込むこと」を産後クライシスと定義している。そういう意味であれば、産後クライシスは今に始まったことではなく、古今東西で報告されているが「産後クライシス」という言葉自体が新しく、誤解も多いので、今回を含めて5回に分けて詳しく説明する。

トロント大学の調査では、産後の女性では一般的に、最初の数週間にわたって、夫に対する「肯定的感情」が減少することが報告されている。目白大学の心理学教授小野寺敦子氏は、「親になることにともなう夫婦関係の変化」という論文で、親になる前に比べて、親になって2年後、3年後では、夫婦ともに相手への「親密性」が低下することを明らかにしている。

まさに産後クライシスである。

また、イタリアで行われた小規模な研究では、産後の敵対的感情には母乳の分泌を促すホルモン・プロラクチンのレベルの高さが関与していることが報告されている。動物の実験でも、プロラクチンが母親を大胆不敵にすることが報告されている。子連れの母熊が、近寄るものすべてを威嚇するのも同じ理由だろう。

女性はホルモンの力をもらった産後の日々に、自分がどれだけ怒りの感情を抱けるかに気付くのだ。 これこそ産後クライシスの背景にある生理作用である。

つまり、産後クライシスの、「トリガー」を引くのは夫ではなく、生理作用であることは、出産・育児にかかわる人の間ではほぼ常識だ。私も産後の夫婦関係に悩む父親へのカウンセリングでは、「ホルモンのいたずら。悪いのは妻でもあなたでもない」ということをやんわりと伝えることがある。