絵本化された1匹の犬の一生が動物実験の現状を変えた『星空のシロ』
飼い主から捨てられたり、飼えなくなったからと保健所や動物管理事務所に持ち込まれたりした犬や猫は、どんな運命をたどるのでしょうか。実在した1匹の犬の一生をもとに描かれた絵本『星空のシロ』。自治体に持ち込まれた犬や猫の、動物実験施設への払い下げをなくしていくきっかけとなった絵本です。
実験施設から救い出され、犬らしさを取り戻したシロ
捨て犬のシロは、動物管理事務所から病院の実験施設に連れてこられました。脊椎の中枢神経を切る実験を受けた後、きちんとした手当てを受けることなく、瀕死の状態でいたところ、「さやかさん」という女性によって助け出されます。病院で治療を受けたシロは、1歳になったばかりの幼い犬であることが分かりました。丁寧な治療が続けられ、傷口がふさがり、皮膚病のために抜けた毛が生え始め、歩けるようになりました。最も大きな変化は、「ワン!」と鳴くことができるようになり、かわいいいたずらもするようになったことでしょう。つらい経験から、誰かを信頼して、その相手に働きかけるということを、すっかり忘れていたシロだったのです。
これからどんどん楽しい体験をすることができると思われた矢先、シロは、不慮の事故によって星になりました。クリスマスイブの夜のこと、約2年の短い一生でした。
多くの動物たちを救うことになったシロ
この絵本は、一般の人たちが、動物実験に使われる動物たちに関心を持つきっかけになりました。動物保護団体の働きかけなどにより、東京都が、動物管理事務所から実験施設への動物の払い下げを廃止したのが1994年。それから10年ほどの間に、全国の多くの自治体も、払い下げを廃止することになりました。ペットたちのつらい最期を減らすために
ちょうとこの絵本を出版された前後、動物管理事務所に、捨て犬や捨て猫、迷い犬や迷い猫のお話を伺いに行ったことがあります。その時、おりの中からこちらを見て「ミャー!」と鳴く数匹の子猫に出会いました。もっとたくさんの犬や猫がいるのかと思っていましたが、管理事務所に来た犬や猫の中で、もらい手が見つかるのはほとんど子猫に限られ、多くの犬や猫が殺処分という形で、一生を終えていくとのことでした。シロはつらい経験の後、信頼できる人たちと心の交流を体験し、短い一生を終えました。また、シロの存在は、自治体から即実験施設に払い下げられる動物たちを減らすための力となりました。シロは苦しい思いをしたけれど、その存在には大きな意義があったと、絵本を読む子どもたちも感じることができるでしょう。しかし現実には、存在の意義などと無関係なまま命を落としていく、かつては「ペット」だった動物たちがたくさんいます。重いテーマですが、1人1人が少しずつ考えると、救える小さな命が増えるかもしれません。