脊髄損傷の問題傾向
脊髄損傷は、障害部位によって障害レベル、基本動作レベル、日常生活動作レベルが大きく変わります。その為、髄節に関連するデルマトーム、ミオトームはしっかり頭に刻んでおきましょう。また、自律神経系の支配領域に関する理解も重要です。基礎学習を固め、部位別の障害により、ADLや基本動作にどのように影響するのか? どういった動作指導が必要なのか? をしっかりと復習する流れが脊髄損傷の学習には必要です。その他、障害度を示す分類も多く、可能なADLの程度を判別するFrankel 分類。アメリカ脊髄損傷協会がまとめた、脊髄損傷の神経学的および機能的分類のための国際基準であるASIA分類。脊髄損傷の中でも頸髄損傷者に対し、上肢残存機能からみた分類であるZancolli分類などについて、よく出題されています。また、装具の適応や合併症など、環境設定や予後予測に関しても押さえておく必要があります。
脊髄損傷の過去問題と解答
過去問題 第51回(2016年)75歳の男性。交通事故による第5頸髄レベルの脊髄損傷で四肢不全麻痺。受傷後6か月経過。端座位の保持と手すりを使用した立ち上がり動作は可能。食事は太柄のフォークで自立。トイレ動作は見守りが必要。衣服の着脱は介助があれば行える。自宅内は手すり歩行で移動し、屋外は車椅子移動。Frankel分類はどれか。
- A
- B
- C
- D
- E
この問題の答えは【4】です。フランケル分類は、脊髄損傷の評価尺度でAからEまでの段階があり、Aが最も重症、Eが正常と判断し麻痺の段階を表します。具体的には以下のようになります。
- A:Complete〔完全麻痺〕:損傷部位以下の運動知覚の完全麻痺。
- B:Sensory only〔運動喪失〕:運動完全麻痺で、知覚のみある程度保存。
- C:Motor useless〔運動不全〕:損傷部位以下の筋力は残存しているが、実用性が乏しい。
- D:Motor useful〔運動あり〕:損傷部位以下の筋力に実用性があり、補助具の要否に関わらず歩行可能な状態。
- E:Recovery〔回復〕:筋力の低下はなく、知覚障害もない。膀胱直腸障害も認めない。
過去問題 第51回(2016年)
脊髄損傷患者(第5頸髄節まで機能残存)が可能な動作はどれか。2つ選べ。
- 肩関節外転
- 肘関節伸展
- 前腕回外
- 手関節背屈
- 指伸展
この問題の答えは【1,3】です。各動作に作用する筋の髄節が理解できていればさほど、難しくない問題です。正答以外の選択肢として、2の肘関節伸展は、上腕三頭筋の髄節が第7頸髄支配なので間違い。4の手関節背屈は、長橈側手根伸筋が第6頸髄支配なので間違い。5の指伸展は、総指伸筋が第7頸髄節支配のため間違いとなります。前腕回内回外は、第6髄節のイメージがあますが、こと回外に関しては、上腕二頭筋の作用と髄節を考えると、第5髄節残存で可能な動きとなります。
過去問題 第50回(2015年)
25歳の女性。交通事故で頸椎脱臼骨折を受傷した。脊髄ショック期は脱したと考えられる。MMTで肘屈曲は徒手抵抗に抗する運動が可能であったが、手関節背屈は抗重力位での保持が困難であった。肛門の随意収縮は不能で、肛門周囲の感覚も脱失していた。目標とする動作で適切なのはどれか。
- 起き上がり
- 自動車運転
- 側方移乗
- 電動車椅子操作
- トイレ移乗
この問題の答えは【1】になります。問題文にある情報から想定される能力レベルを考察する問題です。大事な要素を切り出すと以下のような形になります。
- MMTで肘屈曲は徒手抵抗に抗する運動が可能
- 手関節背屈は抗重力位での保持が困難
- 肛門の随意収縮は不能、肛門周囲の感覚も脱失
- 自動車運転:C6機能残存レベル(車の改造が必須)
- 側方移乗:C7機能残存レベル
- 電動車椅子操作:C5機能残存レベルの適応ではあるが動作目標としてはすぐに獲得できるレベルのため目標として適さない。
- トイレ移乗:C7機能残存レベル
過去問題 第50回(2015年)
脊髄完全損傷者の機能残存レベルと日常生活動作の到達レベルの組合せで正しいのはどれか。
- 第4頚髄節 - 手動での車椅子操作
- 第5頚髄節 - 更衣動作の自立
- 第6頚髄節 - 寝返りによる自立
- 第7頚髄節 - 介助によるトイレ移乗
- 第8頚髄節 - 介助による起き上がり
この問題の答えは【3】になります。
過去問題 第48回(2013年)
頚随損傷(第6頚髄節まで機能残存)患者に対する車椅子上の動作指導の方法で誤っているのはどれか。
損傷部位によって、ADL動作は大きく変化します。各髄節レベルでどういった動作が出来るのか?当然、そこを問う問題が出題されます。
この答えは【4】になります。C6残存レベルでは、肩関節の動作は可能ですが、肘関節は屈曲のみ可能です。体幹筋の活動性は乏しく、腹圧を高めて体幹を安定させるなどの動作が出来ず、背もたれのない端坐位などは非常に不安定になります。4の図のように下肢を挙上させると言った動作は、体幹機能の安定が必要であり、C6残存レベルでは、困難をきたすと考えられます。一方、その他の選択肢についてはC6残存レベルの動作として、適切な動作と判断できます。
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