一つのスパースに多様な使い方を提案!
リビングは通常はソファーのあるゆったりとした空間ですが、人が集まる時などは前ページでご紹介したダイニングテーブルの高さを、ローテーブルのように下げることが可能です。これにより、みんなで床に座ってワイワイと楽しめる空間に変化します。このほか、窓際にもいくつかベンチがあることで、家族に様々な居場所ができます。3階に移りましょう。それぞれのスペースが4帖程度と小さいのは、個室でできることが実はそれほど多くないためです。子どもが自室ですることというと、就寝と学習くらい。そのため、二つの部屋を「ひとりの間」(子ども部屋)、さらに学習スペースとなる「あいの間」という間取りにしているわけです。
そのかわりに、テラス(月の間)に面する「白の間」と呼ばれるスペースを設け、家族の誰かが一人で過ごせる場所としたり、月の間とのつながりを利用してここでパーティーなどを行うこともできるようにしているのです。この建物は「五更観月の家」と名付けられていますが、お月見だってできるのです。
さて、ここまででお気づきになると思いますが、この建物は要するに一つのスペースを一つの目的に限定せず、家族のライフスタイルに合わせて様々な利用の仕方を可能にしていることが特徴だといえます。
例えば、タタミスペースを設けることで収納量の拡大という課題を解消しています。さらに、この建物で限定的に見える子ども部屋の間取りでさえ、将来的に家族構成が変わった際に、間仕切りを取り払うことで違った使い道ができるように配慮されています。
もちろん狭小住宅ですし、しかも都市部に建つ住宅ですから、プライバシーの確保(近隣からの視線の調整)や防犯対策、さらには採光と通風の確保といった自然との調和に関しても様々な工夫が必要です。この建物では、そうしたポイントも確認できますから、お近くの方は一度見に行かれて、住まいづくりの参考にされるといいと思います。
段差には、良い段差と悪い段差がある
ところで、今回、この建物を見学していて改めて考えたことの一つに、住宅のバリアフリー化と段差についてえした。ここまで再三ご紹介してきましたが、この建物には段差が至る所にあります。例えばタタミスペースなどがそう。これらはどのような考え方に基づいて設置されているのでしょうか。実は段差というのは良い段差と悪い段差があるようです。悪い段差とは、人が気づかないくらいの低い段差。これだと、足が不自由な人だけでなく、普通の人でもつまづくことがあります。逆に良い段差とは人が必ず気づく高さの段差です。この建物の段差は、人が腰掛けて立ち上がるのに苦労しない高さ40cmくらい。この高さなら、足の悪い高齢の方でも腰掛け立ちができるので好都合といわれています。
その段差を利用することで収納スペースもできるわけですから、ある意味、適切な高さの段差を設けることは一石二鳥のメリットがあるわけです。ですから、都市部の狭小住宅において段差がある住まいづくりというのは、よく見られる設計手法となっています。
それは一昔前は建築家がよく提案していた手法でもありますが、今では工業化住宅を手がける旭化成ホームズのようなハウスメーカーでも積極的に取り入れられているのです。そのようなことを理解して頂きたいという意味でも、この建物をご紹介させて頂きました。
ただ、このように書くと、ただ段差を取り入れればいいと聞こえるかもしれません。狭小住宅、特に3階建てなどの場合は、階数が増えるということは段差が増すことなのであり、実は大問題。そのため階段の傾斜や手すりの形状などが重要なポイントになります。このようなことをユニバーサルデザインというのですが、是非皆さんにはこの点をしっかり重視して頂きたいと思います。