大学路ではあちこちに上演中作品のポスターやのぼりが。(C) Marino Matsushima
『キム・ジョンウク探し』上演中のプティッツェル・シアター(C) Marino Matsushima
東京でも、この春オープンしたアミューズ・ミュージカル・シアターでさまざまな大学路発ミュージカルが上演され、大学路はすっかり身近な場所となってきました。一度は現地に行ってみたい!という方も多いのではないでしょうか。今回は大学路でミュージカルを観るための基礎知識を、現在来日中の舞台『僕らのイケメン青果店』の話題を絡めつつ、お伝えしましょう。
公演情報の集め方、チケットの購入方法
何か月も前からチケットをおさえて……というのが日本では一般的ですが、大学路はデートスポットでもあり、カップルにとっては「何を観ようか」と相談するのも楽しいひと時。現地では「とりあえず行ってから何を観るか決める」という人も多いようです。そのため、ソウル地下鉄4号線「恵化(ヘファ)」駅を降りると、ちらしやチケットの束を握りしめた若いお兄さんたち(学生アルバイト?)がささっとちらしを渡しに来ます。「これ、面白いですよ~。いかがですか?」恵化駅を降りてすぐの大学路チケットボックス。(C) Marino Matsushima
チケット代はだいたい30000ウォン(2700円前後)ですが、3人以上、リピーター、平日割などあれこれ割引(現地では「イベント」と言う)をやっている場合が多いので、予算より安く済む場合も。韓国語に自信のない方は、英語や日本語、ボディランゲージに笑顔を駆使して、意思伝達してみましょう。英語の場合、お互いネイティブではないので「One ticket for tonight, please」などできるだけシンプルな表現のほうが伝わりやすいです。(意外に、「英語は分からないけど日本語ならちょっと分かる」という方も少なくありませんので、英語が通じなくてもあきらめないで!)
しかし日本からわざわざ行くなら、やっぱり事前にチケットはおさえておきたい。どんな作品があるかも把握しておきたい、という方もいらっしゃるでしょう。そんな時にはソウル市公式観光情報サイト「VisitSeoul」の「公演・イベント」ページや、韓国のチケット取扱い大手「インターパーク」のサイトが便利です。どちらも日本語ページがありますので、韓国語が分からなくても予約までできますが、日本語ページでは取扱い作品の数が限られているのが難。どんな作品が上演中、もしくは上演予定かだけでも調べたいなら、「インターパーク」の韓国語ページを眺めてみましょう。ハングルが読めなくても、翻訳物の大型公演なら原題がアルファベットで表記されていることも多いですし、リストの全作品に宣伝ビジュアルがついていますので、どんな雰囲気の作品か、だいたいの目星はつけられます。
また、中には日本語で作品解説をしている作品もありますので、気になる作品があればまずは宣伝ビジュアルをクリックし、作品詳細欄に移りましょう。(例えば、ロングラン作品でしたら、ハートマークのビジュアルでお馴染みの『キム・ジョンウク探し』、日本での公演名『あなたの初恋探します』がこれに該当します)。画面右の赤いクリック欄(「予約する」)の下に「Foreigner/外国人」という表示が出たら、ラッキー! クリックすると、日本語で作品解説を読むことができます。「では、これ!」と決めたら、まずは会員登録。予約はクレジットカードのみ受け付けていますが、手順詳細は日本語ページでご確認ください。
『僕らのイケメン青果店』上演中の大学路芸術広場は、シネコンならぬ小劇場コンプレックス。(C) Marino Matsushima
その結果、現地では深夜2時に「公園の夜のお散歩」と呼ばれる現象が起こります。その日の昼間、キャンセルされたチケットが深夜2時にインターパークの画面に反映されるのを狙って、現地のミュージカル・ファンは、パソコンの前にスタンバイ。これを、インター“パーク”をもじって「公園の夜のお散歩」と呼ぶのです。この方法で、韓国では最も入手困難と言われるチョ・スンウ(映像でも人気のミュージカル・スター)主演の『ヘドウィグ』のチケットが何度も買えた方もいます。どうしても観たい公演がある方、試してみる価値はあるかもしれません。
いざ、劇場へ!
『僕らのイケメン青果店』キャスト表。野菜マークで「今日のキャスト」を表示。(C) Marino Matsushima
劇場に入ると、ほとんどの演目は3000~5000ウォン(270~450円)程度でプログラムを販売。ロビーの片隅に、配役やプロフィールなどが記載された無料ちらしが置かれていることもありますので、まずはこちらをチェックしてみてもいいかもしれません。写真の『僕らのイケメン青果店』のようにWキャスト、トリプルキャストの公演の場合、「今日のキャストはこの人」と写真が掲げられていますので、これを撮影して記録に、という観客も多いようです。
『僕らの~』ちらしには俳優のプロフィールも。(C) Marino Matsushima
大学路芸術広場1館は座席数250弱。この日は満員。(C) Marino Matsushima
終演後のお楽しみ
夜公演の後、あるいは昼一回公演の後は、いわゆる“出待ち”をするファン多数。プログラムの顔写真のページを開いて、お目当ての俳優が楽屋から出てくるのを待ちます。韓国では日本以上にこうしたファンサービスが恒常化していて、役者さんは疲れも見せず、ファン一人一人と言葉を交わしながらプログラムにサイン。舞台を観てお気に入りの役者さんが出来たら、こうした交流をするのも楽しいかもしれません。筆者も現地で『女神様はご覧になっている』を観た際、コミカルな兵士役キム・ナムホさんの巧さに驚き、思わずサイン待ちの列に並んでしまいました。ソウルではいい役者は掛け持ち出演も珍しくありませんが、彼も当時、御多分にもれず『女神様~』と『僕らのイケメン青果店』を掛け持ち中。英語で話しかけてもにこやかに答え、『僕らの~』日本公演にも出演予定とあって「日本でまた会いましょう」とサインの脇に書いてくれました。その後、来日後の取材会で、ナムホさんは「大学路ではかれこれ10年活動しています。最近はいろいろな場所で芝居をしていますが、最後に帰る場所は大学路だと思っています。僕に会いたくなったら大学路にいらしてください」と、大学路愛を熱く語っていました。
進化する大学路ミュージカル
通常、一つの作品は一度観れば“観た”ことになります。しかし、大学路の創作ミュージカルはさにあらず! ここではバージョンアップする作品が多く、中には大幅に内容が変わる作品も少なくないのです。大学路では一公演がだいたい3か月単位ですが、その後再演ということになれば、同じ演出家があちこち手を入れることもしばしばですし、『キム・ジョンウク探し』などはプロデューサー曰く、「フレッシュさを保つために2年に一度は演出家を変えて作り直すため、現在の舞台は初演から180度違うものになっている」のだそう。最近の作品では先日来日もした『風月主』がこの秋、演出を大幅に変えて上演するということで、大きな話題になっています。大学路では新進作家の作品が多く、「さらによい舞台」のためなら、作り手たちが改変を厭わない。また観客の側にも作品を見守り、育てようという気風があることが、こうした特質の背景にある模様です。一度観た作品でも、数年後に現地を訪れてまた上演されていれば、どうバージョンアップしているか、ぜひ確認してみてください。
大学路発ミュージカルを象徴する作品が来日中!
『僕らのイケメン青果店』左からチョ・ソンジェ、カン・インヨン、キム・ナムホ、キム・デヒョン、ファン・バウル 写真提供:アミューズ
改変を厭わない大学路ミュージカルらしく、現在の来日バージョンは今夏大学路で上演されていた時よりもすっきりとした構成で、日本人の観客も入り込みやすい内容。前述のキム・ナムホさんの他にも、以前THE CONVOYショーの『ATOM』で来日経験があり、今回もダンサーの片鱗をちらりと見せるカン・インヨンさん、恥じらうような笑顔がなんともかわいいファン・バウルさんなど、気になるキャスト揃い。今後彼らがどんな舞台で羽ばたいてゆくか、にも注目です。
*公演情報*
『僕らのイケメン青果店~チョンガンネ~』
上演中~2013年10月20日=アミューズ・ミュージカルシアター