ロングセラーの椅子「低座椅子」
さて、この作品展開催の丁度1年半前。
授業は、指導している学校に長大作氏ご本人をお招きすることからスタートした。
学生たちの前で低座椅子デザインについて語る長大作氏。 |
ここで、今回制作された長大作氏の「低座椅子」について。
この椅子は、1960年にデザインされ以後ロングセラーを記録している日本の名作椅子のひとつ。名前にあるように「低座」つまり、低い高さの座面を持つ椅子である。椅子にとって座面の高さは、暮らし方や使い方を決定する重要なポイント。とくに畳や床に座る習慣の日本人にとって、低い座面をもつ椅子は必然の椅子なのです。詳しくは日本人の椅子「低座椅子」1960年を参照してほしい。
モノづくりは、下積み生活の結晶
普通、一品作りの作品なら全体を形成する為の部品を加工し組立て、仕上げればよいのだが、ある程度量産する場合、同じ部品を数個ずつ製作しなければならない。今回のように学生一人一脚となれば当然人数分の同一部品が必要となる。
その場合、同じように部品をかたち作ったり、同じように加工をする為の道具が必要になる。その道具を治具、ジ・グと呼ぶ。
(左)背や座の木口を加工する治具。(右)同じく背や座を成形する型。 |
ここに展示されている道具は、すべて学生達が工夫して試したものばかり。中には何度も改良してやっと完成したものもあれば、試行、試行の上、結果的にはうまく成形することができなかった治具もある。
(左)本物の「低座椅子」解体する。(右)型に数枚の単板を挟んで背や座を成形する。 |
また、どうにか形作ることができた部品でも、表面にしわが寄ったり、うまく成形ができなかったものもある。数日放置いている間に変形したりするのもザラである。学校の設備も専用のものではないから正確に造るのは酷な話ではあるが、『とにかくどうしたら作る事ができるか?』。
疑問を投げかけ、解決、試行の繰り返し。こうして、通常目にふれない治具や失敗作……いわば下積み生活の結晶が、どうにか完成した作品なのである。