和製スタンドバイミーとも呼ばれる名作
『少年時代』
■監督篠田正浩
■主演
藤田哲也、堀岡裕二
■DVD販売元
東宝
■あらすじ
太平洋戦争末期の昭和19年秋、戦況が逼迫する中、東京の小学5年生進二は富山に疎開することになった。
地元の小学校に転入した進二だったが、そこには級長でリーダー格の少年・武がいた。武は同級生の少年達を高圧的に支配し、誰も武には逆らえなかった。
武は校内でこそ進二を冷たくあしらったが、なぜか二人きりになると優しい態度をみせるのだった。そして進二は次第に武に親しみを感じていった。
春になり、休学していた副級長の須藤が復学してきた。須藤は武の実権を失わせるため、武を快く思わない級友達を取り込み始め……
■おすすめの理由
本作は戦時下、戦争が少年達の社会に落とす影を描くと同時に、少年期の終わりの普遍的な一コマを鮮やかに写し取ったジュヴナイルものの名作でもあります。
そのため“和製スタンドバイミー”とも呼ばれることがあります。
同名の井上陽水氏の名曲はこの映画のテーマ曲として作られ、また原作の一つ、藤子不二雄A氏の漫画も映画とはニュアンスが異なる名作として大変有名です。
作品の魅力であり面白い視点は、戦時下、軍国主義に支配される大人社会の縮図として、少年達の社会を描いている点です。
そこは一人の権力者の意見が絶対的、他の者は皆従わざるをえない上お互いを監視し合う場です。同時に嫉妬、野心、裏切りが渦巻く場でもあります。
劇中、武は須藤の策略により、権力の座から引きずり下ろされ、取り巻き連中も皆須藤に寝返ります。ボコボコにされ屈辱を受け続ける武ですが、男の誇りだけは貫き通します。
武の本当の優しさを知る進二は、武を励まし近づこうとしますが、武は頑なにそれを拒否します。
ここも含め、本作は少年期特有のある種の不器用さ、残酷さ、同性に対するまるで幼い恋の様な複雑で入り組んだ感情、等少年達の心のゆらぎをリアルに描き出すことに成功しました。
それにより戦争の恐ろしさ、悲惨さ、理不尽さに加えて、普遍的価値を提示したことで名作足りえました。
そして絵画の様に鮮やかなエンディングから、息をのむように美しいラストカットまでのシークエンスは、観る男性一人一人に自分の少年時代の輝きを思い起こさせます。まるでかけがえのない勲章のように誇らしく。