本編のストーリーとどこか重なる2人の女優の姿
■作品名Wの悲劇(1984年)
■監督
澤井信一郎
■主演
薬師丸ひろ子、三田佳子
■DVD/Blu-ray発売元
角川書店
■おすすめの理由
1980年代、邦画の世界に一大ムーヴメントを起こしたのが角川映画です。角川文庫の小説を原作にして、当時「映画をメインに活動する。基本、テレビには出ない」という露出の仕方をしていた薬師丸ひろ子さんや原田知世さんを起用し、プロデューサーの角川春樹氏は沢山の映画を世に送り出しました。これがメディアミックスの走りだったのかもしれません。
その中で特に印象に残っているのがこの「Wの悲劇」です。原作は夏樹静子さんのミステリー小説ですが、映画では舞台「Wの悲劇」を上演する劇団の新人女優・三田静香(薬師丸ひろ子)の葛藤と成長を描いた内容になっています。
■あらすじ
劇団の看板女優・羽鳥翔(三田佳子)の長年のパトロンがホテルの密会中に死亡し、彼女は静香に「あなたの部屋で死んだ事にしてくれたら舞台に出してあげる」と持ちかけ、それを受け容れた静香は嘘の記者会見をし、初めての相手だった恋人(世良公則)とも別れて夢にまで見た舞台にメインキャストとして立つ事に。
初日の幕が開く前に舞台袖で震えている静香に翔が言い放つ一言。「女優、女優、女優! あなたどんな事をして今ここに居るの? 私なんて初めての舞台の時怖くて生理が始まっちゃたわよ!」……まだ殆ど子供だった時にこの映画を観て「な、なんて怖い世界なんだ……。」とプルプルしてしまったのを今でもよく覚えています。
この映画の見どころはどこまでが虚でどこまでが実か分からない迫真の演技で大女優を演じた三田佳子さんの凄まじさと、アイドル路線から大人の女優へステップアップしようとしていた薬師丸ひろ子さんのキラキラした存在感ではないでしょうか。静香が誰もいない公園の野外ステージでチェーホフの「かもめ」の一説を演じたり、翔が若くて苦しかった頃の話を同じ劇団の仲間にふと打ち明ける時の寂しい表情。本編のストーリーとどこか重なる2人の女優の姿……とてもリアルです。
劇中劇「Wの悲劇」の演出家役として蜷川幸雄さんが出演しています。蜷川さんと言えば「稽古場で灰皿を投げる」という噂が囁かれていましたが、この映画の中ではそれをセルフパロディーとして演じていてちょっと興味深いですよ。
甘く切ない青春の日々を思い出さずにはいられない映画です。