芸術の影響・伝播の複雑さが垣間見える興味深い作品
『東京画』(Tokyo-Ga)

■監督
ヴィム・ヴェンダース

■DVD販売元

東北新社

■おすすめの理由
本作は『ベルリン・天使の詩』で有名なドイツの鬼才ヴィム・ヴェンダース監督によるドキュメンタリー映画です。

ヴェンダース監督は小津安二郎を敬愛していることで知られ、本作では小津的なるものを求め自ら1983年の東京を取材します。

今回この作品をおすすめに選んだのは実は名作だからではありません。
ただ本作は映画の異文化に対する影響について、大変興味深い視点を提供してくれます。

本作は二部構成です。一つは小津作品に数多く出演し“日本の父親・おじいさん”として親しまれた俳優・笠智衆氏、そして同作品のカメラマンとして知られる厚田雄春氏へのインタビューです。

本作の見所は正にこのパートで、語られる内容の興味深さは勿論、今となっては実に貴重な笠さんの本音が聞けたりと、映画好きの方なら垂涎ものです。

一方もう一つ、83年の東京を映し出すパートは日本人なら首を傾げる描写の連続です。

「竹の子族」を米国文化の模倣と結論付けたり、食品サンプル屋を取材し、虚飾の芸術と皮肉ったり、取材対象のチョイスの奇妙さもさることながら考察内容も誤りだらけです。

ヴェンダース監督はこれらの対象に失望し、小津が描いた古き良き日本はどこにいった?と嘆きます。しかしここでヴェンダース監督が小津作品を正確に理解しているか疑念が生じます。

小津監督は「どうでもよいことは流行に従い、重大なことは道徳に従い、芸術のことは自分に従う」なる名言を残しました。

即ち彼は極めて合理的な現実主義者であって、本来古き良きものへの郷愁を描いた人ではないのです。

さらに小津の墓を訪れる場面では、墓石に刻まれた「無」の一字を禅における無ではなく、虚無の無だと誤解している様子です。

それではヴェンダース監督の小津への愛は誤解だらけの無意味なものでしょうか?

面白い後日談があります。

彼は本作の発表後日本への愛情が冷めることはありませんでした。それどころかその後100回は日本を訪れ理解をずっと深いものにしました。

そう彼の小津と日本に対する敬意は、表面では誤りもありましたが本物で真摯なものでした。この様に芸術の影響・伝播は複雑で計り知れないものなのかもしれません。



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