萩原麻未さんが見た『エル・システマ』
ガイド大塚(以下、大):萩原さんは『エル・システマ』のことをどのように知ったのですか?萩原麻未さん(以下、萩):偶然にYouTubeでグスターボ・ドゥダメルとシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラの来日公演の動画を見つけたんです。アンコールで踊りながら演奏したりしている様子に衝撃を受けて「彼らは誰なんだろう!?」って何回も見ました。それが最初ですね。
大:あれは唖然とするほど、すごい公演ですよね。
萩:はい、本当に驚きました。それからしばらく経って、幸いにも今回の共演のお話をいただき、現地に行くことにしました。
大:ベネズエラという国はどういう感じでした?
萩:とても治安が良くないと聞いていたので、少し構えてというか、もしかしたら危ない目に遭うかもしれないと思って行ったのですけれど、着いてみると現地の方はとても優しい方ばかりだし、とても温かかったです。ベネズエラの良い部分がもっと知られたらいいのになと思いました。
大:殺伐とした感じではないのですね?
萩:ホテルと演奏会場の行き来がほとんどでしたし、ほんの一部を垣間見られただけですけれど、ラテン系の国だからか、初めて会うのに友達のように接してくださるし、道を歩いている人も幸せそうな雰囲気を漂わせていましたね。
大:そうなのですね。『エル・システマ』の学校にも行かれたそうですが、いかがでした?
萩:音楽ができること、自分たちが毎日何かをがんばっていることに本当に喜びを見出しているような感じで、みんな目がとてもキラキラしていました。
大:例えば、日本で音楽を学ぶ子と何が違うのでしょうかね?
萩:音楽を強制されてやっている感じがなく、音楽と関わっているのがとにかく好き!ということが伝わってきましたよ。日本だと親に言われてやっている、ということも多いかもしれないですよね。
私が教室を移動すると皆さんが「今練習している曲はこの曲です」と15分くらい演奏してくれました。普段自分ががんばっていることを人前で披露するのが嬉しくて仕方ない、という感じがしました。年齢が上がるにつれ、どんどん上手になっていました。
大:エル・システマ・ユース・オーケストラ・オブ・カラカスとの共演はいかがでした?
萩:まず、リハーサルが始まる前に、オーケストラのみんなが、拍手だけではなくて「ようこそ!」という感じで口笛を吹いたり、叫んだり、まるでスポーツの試合の歓声のような迎え方をしてくれて、とても嬉しかったです。やっぱりそれは『エル・システマ』ならではの温かい迎え方というか。そういう感じがしました。
大:あー、嬉しいですね、それ。団員は何歳くらいなんですか?
萩:17歳から20代前半くらいまでですね。
大:演奏自体はどうでした?
萩:本当に楽しかったです! 若さ溢れるというか、躍動感溢れるというか、野性味があるというか。リハーサルの1日目からすぐに感じて、私もそういう部分が呼び起こされて本当に楽しく共演できました。
大:他のオーケストラと何が違うのでしょうかね?
萩:どのオーケストラにも個性はあるのでもちろんそれぞれ違うのですけれど、彼らは個々人の個性がとても強いオーケストラで、なおかつパワーがもうすごいですね。彼らと弾いたら誰でも熱くなるだろうな、という感じがしました。
大:来日公演も指揮されるパレーデスさんはいかがでした?
萩:みんなパレーデスさんの言葉に耳を 澄ませて「従おう」という忠誠心のようなものが強くありましたが、オーケストラ側からも個人の意見がとても積極的に出ていて、受け入れたりしていました。彼は私より少し年上なんですけれど、同じ目線に立って音楽を作ってくださり、とても弾きやすかったですね。
あと、リハーサルの時、創設者のアブレウさんが毎回ついてくださったのですが、普段は「わ~」とラテン系のノリノリな雰囲気の団員が、アブレウさんが何か話すときには、みんながその声を一生懸命に聞こうと静かになって集中しているのが印象的でした。
大:共演できて良かったですね。
萩:はい、本当に。彼らの学校を見られたことが良くて、私自身、初心に帰ることができた、というのが大きかったですね。『エル・システマ』では、子どもたちが小さな時から今に至るまで、音楽をする喜びや表現する喜びをずっと肌で感じているんですよね。私もピアノを始めたときにそうだったので、小さかったときを思い出せました。
大:それは良い経験になりましたね。
萩:はい。『エル・システマ』のそもそもの目的でもあるわけですが、音楽に浸ることができたり、感動できたら、人は悪いことをしようとは思わないのでは?という気がしました。
公演当日もお客さんがたくさんいらっしゃっていて、お客さんも一体になって音楽に浸って、皆さん喜んでいて、本当に素敵な空間が生まれていましたよ。
大:良いですねぇ~。来日公演が楽しみです。
萩:はい、クラシック音楽が苦手な人にもオススメです! 本当に生き生きした良い音楽だったらクラシック音楽を聴いたことがない方でも絶対に何かを感じられると思います。
大:広島でも公演がありますが、萩原さんは広島のご出身なんですよね?
萩:はい、18歳まで広島に住んでいて、家族も広島です。アブレウさんが「団員にはぜひ広島に行ってその目で見て改めて平和について考えてきてほしい」という強い希望をお持ちで、前回も公演を行ったそうです。広島には今も家族や友達、お世話になった方もたくさん住んでいるので、彼らを紹介できるのが楽しみです!
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ということで、今回の公演も期待大ですね! 萩原さんもおっしゃるとおり、クラシック音楽を普段聴かない方も感動できるコンサートだと思いますので、この貴重な機会をお聴き逃しなく!
また、今回、東日本大震災のためのチャリティCDも出るとのことです。これはベネズエラでの萩原さんと彼らの公演をライブ録音し、経費を除いた収益をすべて東北の支援に宛てるというもの。萩原さんもエル・システマ側も出演料を放棄し、発売されるそうです。
購入方法は、分かり次第、こちらに追記します! お楽しみに!
と、『エル・システマ』記事はここまでですが、萩原さんに最近の活動や演奏するときに大事にしていることなどについても尋ねました。そちらもぜひお読みください!