日比谷野外オーケストラ・ピクニックの曲目について
大:予定されている曲目について教えてください。井:普段クラシック音楽を聴かない人にも聴いてもらえるためにどうすべきかいろいろ考えました。まず『千と千尋の神隠し』『魔女の宅急便』『となりのトトロ』など、誰もが一度は耳にしたことのあるだろう親しみあるものを演奏するので、子どもと一緒に来て楽しんでもらえればと思っています。なので、ネクタイを締めず、革靴ではなく運動靴で、ピクニックに行くような気持ちで来てもらえないかなぁと思っています。
でも「ピクニックに行くんだったら、軽井沢に行くよ」という人もいるでしょうから、チケット代をとっても安くしました(笑)。
ただし、せっかくオーケストラを聴いてもらえる機会なので、オーケストラの主流の音楽であるグスタフ・マーラーの曲を一部だけどちゃんと聴いてもらおうという骨のある企画です。
大:マーラーは何番の何楽章を演奏されるのですか?
井:それは言えません(笑)。秘密ってことではないんですけれど「何番の何楽章」みたいに数字が出てくると、大体難しく、つまらなく思われがちなんですよ。なので「マーラーの音楽って何だろう?」って思って聴いてもらえればと。
大:なるほど、どの曲が演奏されるのか、楽しみです(笑)。オーケストラは新日本フィルハーモニーですね。
井:はい、僕が以前、音楽監督をやっていたオーケストラです。今も、アットホームな気持ちで演奏できるオーケストラです。
大:井上さんは今までに、野外で指揮をした経験はありますか?
井:はい、京都市交響楽団の音楽監督だった1990年代に毎年やっていました。いわゆる大文字焼きの日にです。夏のど真ん中で大文字の送り火が始まる前に音楽を始めて、火が着いたら音楽をビタっと止めてみんなそっちを見よう、というコンサートです。最初は平安神宮の中でやり、それからお客さんが多くなってきたので嵐山の川岸でやっていました。市のサービスのようなもので無料だったこともあり、盛況でした。やっぱり雨には悩まされましたが、晴れれば素晴らしいですよ、幻想的で。パッと火が点いたらみんな演奏を止めて。火が弱くなり始めたら音楽を始める。なかなか良かったですよ。
大:それも素敵ですね。何にしても東京で行われる今回の野外コンサートは楽しみです。マイクは使うのでしょうか?
井:はい、使います。
大:やはり音が拡散してしまい、マイクで拾わないとよく聴こえないのでしょうか?
井:それが分からないのです。誰も経験していないので分からない。だから音が拡散して小さく聴こえたり、バランスが悪くてお客さんが満足いかなかったら嫌だな、と思い、使います。
アンプリフィケーション(音の増幅)も昭和時代のアンプリフィケーションと違って、どんどん進化しているので、スピーカーから聴こえてくる音、という風には聴こえてこないですよ。自然な音のように聴こえてくると思います。
大:音が拡散すると嫌だな、と思ったのでそれは安心ですね。あと、そう、普通のコンサートと違って、飲食可なのも嬉しいですね。僕はお酒飲みながらコンサート聴けることが楽しみです(笑)。この公演がきっかけになってクラシック音楽を好きになる人が増えるといいですね。
井:はい。誰しも知らないものってあるじゃないですか。世の中、知らないものばっかりなんですよ。僕も、前に東北に旅行に行ったら、とてもキレイなところがあって、わざわざマチュピチュなど遠くまで行かなくても、日本でもキレイなところがあるんだな、と発見するわけです。だから、普段聴かないクラシック音楽にも、知らなかった美しさがあったと感じてくれれば一番嬉しいですね。
場所は本当に素晴らしい東京のど真ん中で、屋外で行われるクラシックの音楽会に、好奇心を抱いてくれる人がたくさんいると嬉しいです。ぜひ原稿に『面白そうだ』って書いてください(笑)。
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ということで、井上さんの熱い思いが入った、東京での歴史的なリラックスした野外クラシックコンサート、楽しみですね!
将来的には、夜の公演に加え、座席にオイルヒーティングを入れて冬もコンサートできるようになるといいなぁ、と夢を語るマエストロでした。
<関連動画>
・井上道義さんによる公演紹介