小さくても安心感と本物感のある走り
まず、VW up!の魅力から触れていこう。乗り出してすぐに感じるのは、ロードホールディング性能の高さとキビキビしたハンドリングを両立していることで、コーナーなどでは機敏に向きを変えながらもかなり粘っこく路面を捉えるので、安心感は絶大だ。
よく指摘されるシングルクラッチシステムのASGは、同社のDSGのような素早さとスムーズさはないが、MTに乗り慣れた人ならまったく問題ない。日本車がこぞって採用する、変速の手応えがなく、スムーズに走れるようでいて、いつまで経っても加減速のフィーリングがこなれないCVTよりもよほど扱いやすく感じる人もいるだろう。
街中ではもちろんだが、高速道路を場所に移してもアウトバーンの国で生まれただけあってパワーやスタビリティに不満はほとんど感じられない。
欠点を探せばショートホイールベースのせいか、ピッチングを感じさせることがとくに中・低速時にあるのだが、ボディのしっかり感も含めて日本のリッターカーから乗り換えれば、これがドイツ車か! と発見することもおおいはずだ。
背筋を伸ばして座れる後席
居住性、積載性もかなり頑張っている。up!の全長は日本製コンパクトカーよりも330~340mmも短く、軽よりも150mm長いだけだが、積載スペースを残しながら後席に大人がちゃんと座れる。
フロアから座面までの高さを高くして、アップライトな姿勢にさせる手法だが、これだとだらしのない姿勢になりにくく、身体をしっかりと支えるし、長距離でもかえって疲れにくい利点がある。
フィアット・パンダのパッケージングの妙
フィアット・パンダで最も惹かれたのは、走りだったが、まずパッケージングから見ると、フィアット500と同じホイールベース2300mmとは思えないほど、後席は広く感じる。up!よりもさらにヒール段差が高く、頭上にも余裕があるから開放感も上だ。
背高系のミニバンや軽自動車のように、全長の長さを補うため背を高くして、シートを高くしてアップライトに座らせる手法だが、前後席どちらに座っても違和感のないレベルだし、少し高めのアイポイントは逆に見晴らしのよさにつながっている。
ラゲッジは、両車ともに背もたれを前に倒すだけのシンプルな機構だが、広さもボディサイズを考えるとかなり健闘している。up!は床下に深さのあるスペースがあり、パンダのフロアボードはやや平板で割り切りを感じさせるが実用上大きな問題とはいえない。
さて、2気筒の「ツインエア」はフィアット500などでも体験済みだったが、やはりよく粘るイタリアらしい実用エンジンという印象。タウンユースはもちろん、高速道路が法定速度からプラス20~30%増しで流れていても、難なくついて行けるし、その気になればリードできるほど。
もちろん、音・振動は大きめだが、アイドリングストップしてしまえば関係ない話。エンジン再始動時の音・振動も大きめだが慣れてしまえばこちらも問題ない。
パンダもシングルクラッチ式のツインMTだが、シフトフィールはまさしくMTで、オートモードで走らせても変速時に少しアクセルを戻してあげれば思いのほかスムーズに走る。
パンダはup!よりも背が高いぶん重心も高く感じられるが、やや大きめにロールしながらもこちらもよく粘ってくれる。だが、普通に走るのなら恐さにはつながらないロールの仕方だし、何よりも背が高い割に横風を受けても直進安定性は思ったよりも高く、こちらもさすがにアウトストラーダの国生まれだな、と感心させられてしまった。
ユーザーにおもねるだけでいいのか?
そろそろまとめると、昔からいわれてきたことだが、日本車は車内の収納やシートアレンジなどに熱を入れるだけでなく、燃費競争のため味気のないCVT一辺倒になり、パワー面もSPECの割に速さを感じさせないセッティングにするなど、片寄ったクルマ作りになってしまっている。
確かに、信号待ちでどこかに収納した小物を取り出したり、ベビーカーを後席の足元に積載したりするなら日本の軽自動車やコンパクトカーの方が向いているクルマがあるかもしれないが、こうした使い勝手ばかりのニーズばかり汲んでいると、クルマの基本性能で差が広がるばかり。
さらにいえば、デザインも質感もフルモデルチェンジを果たしても大幅な向上が見られず、最近のコンパクトカーなどは軽自動車に負けているのでは? と思えるほど。どうせ見た目や内装をケチるなら思い切り走りのいいコンパクトカーを作って欲しいし、いまの日本車で今回の2台と同じレベルにあるのは、少なくても走りの面ではスイフトもしくはスプラッシュくらいしか思い浮かばないのはやや残念だ。