介護施設・老人ホーム/高齢者専用賃貸住宅・有料老人ホーム

不足する介護施設問題…「サ高住」は最後の切り札?

多種多様な介護施設や老人ホームのなかで、現在、国が最も力を入れて増やそうとしているのがサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)。今回は、その背景とサ高住の概要、今後の課題などをご紹介します。

横井 孝治

執筆者:横井 孝治

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絶対的に足りない……要介護者の受け皿

サ高住は、不足する介護施設の受け皿になるのでしょうか?

サ高住は、不足する介護施設の受け皿になるのでしょうか?

厚生労働省の集計によると、2011年9月末現在の特別養護老人ホーム(特養)の数は5,953棟。入所者は420,827人で、ほぼすべてが満床となっています。一方、厚生労働省が2009年12月に発表した特養の入居申込者は421,529人。単純に計算すれば、現状の倍の受け皿が必要です。

実際には、複数の特養に入居を申し込んで順番待ちをしている人や、まだ要介護度自体は高くないものの、将来に不安を覚えて早めに入居申込みをしている人も少なくありません。しかし、それでも特養の数が絶対的に不足しているのは事実です。

これに伴い、本来は在宅への復帰を前提とした、病院と在宅の中間的施設である介護老人保健施設(老健)の入所期間の長期化も問題となっています。本来なら、入所後3カ月、長くても6カ月程度をメドとして退所できるように考えられた施設なのですが、最近では1年半、2年といった長期間にわたって入所している人も。同じ老健での長期入所が認められない場合は、3~6カ月単位で別の老健に入所し直すといった人も珍しくありません。

さらに、緊急度は低いものの医療措置が必要な要介護者が入所する、介護療養型医療施設(療養病床)については、2017年度末までに全廃の予定。2006年時点では約12万床あったのですが、厚生労働省の集計によると2011年10月1日現在では75,991床まで減っています。一方、要介護者の数は年々増え続けているわけで、療養病床が全廃されたときの受け皿をどうするかというのも頭の痛い問題です。

老健と療養病床の中間的な存在として2008年に新設された介護療養型老人保健施設(新型老健)は、報酬の安さなどからほとんどの事業者が参入していないのが実態。厚生労働省が運営する「介護サービス情報公表システム」ですら、新型老健についての情報を掲載していないところを見ると、新型老健への移行は失敗に終わったと言えるでしょう。

また現在、国は社会保障費の増加にブレーキをかけるため、施設介護を利用する人の割合を減らし、在宅介護を強化する方針を掲げています。その結果、介護保険の施設サービス(特養、老健、療養病床)を新規に増やすことは困難に。介護付き老人ホームの新設も認められにくいのが実態です。

国の後押しで、急速に増えている「サ高住」

こうしたさまざまな問題を解決するために考え出されたのが「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」です。2011年10月、従来「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」と呼ばれていた高齢者用の賃貸住宅の名称が改められ、次の3つが義務づけられることになりました。
  • バリアフリーであること
  • 安否確認サービスを提供すること
  • 生活相談サービスを提供すること
福祉施設ではなく、あくまで賃貸住宅のため、事業者にはかなりの自由が認められており、提供されるサービス内容も事業者によってまちまちです。サービス付き高齢者向け住宅として認められる最低限のサービスのみを提供するところから、介護付き有料老人ホームに匹敵するようなサービスを提供するところもあります。

現在、国は2025年度末までに60万戸、一説によると100万戸のサ高住を供給することを目標としており、補助金、優遇税制、制度融資などをもとにサ高住の新設を促進しています。その結果、最近はサ高住の新設ラッシュと言えるような状況になっており、サービス付き高齢者向け住宅協会に登録されているサ高住の数は、次のように大きく伸びています。

【総登録件数】
  • 2012年5月現在……1,465棟
  • 2013年5月現在……3,530棟

【総登録戸数】
  • 2012年5月現在……47,802戸
  • 2013年5月現在……113,894戸
また国は、他の在宅サービスとサ高住を融合させることにも力を入れています。同じ建物内に訪問介護、デイサービス、ショートステイなどの事業所を設けることで、地域の介護ニーズに応える受け皿にすることを考えているわけで、最終的にはこうした複数サービスを提供する介護の拠点を、中学校の校区に1つぐらいの割合で提供することを目論んでいると言われています。

サ高住の抱える問題点

急速に増えているサ高住ですが、利用者の立場からするとまったく問題がないわけではありません。

事業者によってサービス内容や費用が大きく異なるため、利用者が自らのニーズに合ったところを見つけて入所しないと、長期にわたって安心して住み続けることはできません。

そのなかでも、特に気をつけたいのが医療措置についての対応です。医療的なサービスをどこまで提供するのかは事業者によって異なりますが、基本的には健康管理面を中心とした必要最低限の提供と考えておいたほうがよいでしょう。

そのため、痰の吸引や胃ろう、じょくそう、経管栄養、尿管カテーテル、酸素吸入といった医療措置が必要な人は、入所を断られる場合もあります。また、入所中に状態が変わって医療措置が必要となった場合も、状況によっては退去を命じられることもあります。

また、医療や介護のプロが夜間常駐することが義務づけられているわけではないので、特養や介護付き有料老人ホームなどと比べると緊急時における対応が弱いサ高住も少なからずあります。

「終の棲家」実現のために必要なこと

それでは、サ高住が「終の棲家」として、入所後ずっと安心して暮らすことができるものになるためには、何が必要なのでしょうか。

私は、定期巡回・随時対応型訪問介護の普及が第一だと思います。これは、次のようなサービスを提供するものです。
  • 1日複数回の定期訪問による訪問介護(生活援助・身体介護)
  • 定期訪問による訪問看護
  • 緊急時などの訪問介護、訪問看護
  • 24時間365日対応可能な連絡窓口
これらが全国どこでも利用できるようになり、なおかつサ高住の中にその事業所が設けられれば、実質的には特養や介護付き有料老人ホームと変わらないサービスを受けることが可能です。

報酬の安さなどから定期巡回・随時対応型訪問介護を提供する事業者はまだまだわずかですが、国も普及に力を入れる方針を出しているので、期待したいところです。

また訪問看護を中心として、死が近づいてきた際の終末期ケア(ターミナルケア)にも、国としてもっと力を入れてほしいと思います。サ高住に入所しながら手厚い終末期ケアを受けることができるようになれば、現在、老健や療養病床に入所している人の新たな受け皿にもなるはずです。

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