*『4 Stars』特集目次*
- 『4 Stars』2017開幕レポート(本頁)
- 2017年版演出・サラナ・ラパイン インタビュー(本頁)
- 『4 Stars 』2013開幕レポート(2頁)
- 2013年版演出・ダニエル・カトナー インタビュー(2頁)
【『4 Stars2017』観劇レポート】
国境を超え、ミュージカル界の至宝たちが
珠玉の歌唱で“愛の探求”を雄大に描くコンセプチュアルなコンサート
『4 Stars 2017』撮影・森好弘
『4 Stars 2017』撮影・森好弘
一曲歌い終わってもすぐに舞台を去って次の歌い手にバトンタッチというわけではなく、次の歌唱まで残ったり、歌ったキャラクターの性根でちょっとしたしぐさを見せ、次のナンバーとの関連性を見せるのは、演出家は違えど、前回の【4 Stars】コンサートとも共通する趣向です(演出・サラナ・ラパインさん)。
『4 Stars 2017』撮影・森好弘
『4 Stars 2017』撮影・森好弘
ほか、大切な人との別れを歌うシンシアとラミンの"Worlds Apart"(『ビッグ・リバー』)からの流れが見事な、喪失感に沈む心中を歌うラミンの「カフェ・ソング」(『レ・ミゼラブル』。クライマックスから消え入るような結びへの移行が必聴)、城田ロミオに対してシエラ演じるジュリエットがフランス語原詞を一言一言、内面から絞り出すように歌い、一瞬にして場内を情感で満たした“Aimer”(『ロミオ&ジュリエット』)など、一曲でも十分に満足度の高いパフォーマンスが次々と登場、時を忘れさせます。
『4 Stars 2017』撮影・森好弘
若者が人生という航海に出て様々な経験を積み、友情や愛を知って帰還(あるいは自分自身に立ち戻る)までを、珠玉の歌唱で雄大に、濃密に描き、出演者のトークをフィーチャーするコンサートとは一味違う、コンセプチュアルなショーとなりました。前回からの続投で気心の知れたラミン、シエラ、城田さんの輪の中に独自の個性を持ったシンシアが参加することで、新たな「4 Stars」色も楽しめる公演となっています。
『4 Stars 2017』撮影・森好弘
演出家サラナ・ラパイン インタビュー
サラナ・ラパイン 2005年からバートレット・シャーのアシスタントを勤め、リンカーン・センター・シアターで数々の公演に携わる。12年に『ウォー・ホース』北米ツアーに参加、14年に日本ツアーも手掛ける。16年にニューヨーク・シティ・センターで『サンデイ・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ』コンサート版を演出。同作品で17年2月に演出家としてブロードウェイデビューを飾り、好評を博した。(C)Marino Matsushima
歌で“ストーリーテリング”が出来る俳優・城田優さんを
ぜひブロードウェイで演出したいです
――サラナさんはどんなご縁で『4 Stars』を演出されたのですか?
「仕事仲間の美術デザイナーから梅田芸術劇場のプロデューサーを紹介されたのです。私は以前、『War Horse』のツアーで来日したことがあり、いつかまた日本で仕事をしたいと思っていたので、とても嬉しく思いました」
――『4 Stars 2017』は“The Search for Love(愛の探求)”というテーマを持つコンサートでしたが、このテーマはサラナさんが選ばれたのですか?
「はい、二つの理由からこのテーマを選びました。一つは、アメリカの女流作家の作品に“どんな困難に直面しても愛の探求は続いていく”という一節があって、この困難な時代においてタイムリーだなと思えたこと。もう一つは、人との出会いにとても積極的でオープンな城田優さんという俳優に出会ったことで、日本での仕事にチャレンジする私と“探究心”が重なるのではと思えたのです」
――コンサートでは常にテーマを設定されているのですか?
「いい質問ですね。ええ、その通りです。以前キャバレー・ショーを演出した時に、TVドラマ『glee』の音楽スーパーバイザーをやっている知人が“キャバレー・ショーであれコンサートであれ、常にストーリーを呈示したらどうか”とアドバイスしてくれ、以来、実践しています。お客様が気づかれるかどうかはわかりませんが、私の中にはいつもテーマがあるんですよ。」
――テーマを設定してからの選曲作業はいかがでしたか?
「とても時間がかかりました。何しろ、プロデューサーからいただたいた、4人の出演者の持ち歌リストがとっても長いものだったんです(笑)。まずはそれを少しずつ削いでいって、日本のお客様にとってお馴染みの曲を厳選すると同時に、私からのアイディアで、新たなレパートリーを加えていきました」
――第一部で登場する『エリザベート』『モーツァルト!』『ロミオ&ジュリエット』等のヨーロッパ・ミュージカルは、サラナさんにとっては新たな出会いだったのではないでしょうか。
「そうですね。クラシカルで、自分にとっては新世界でした」
――日本ではいくつかのヨーロッパ・ミュージカルはとても人気がありますが、ブロードウェイではそうでもない、というか興行的に成功する作品はほとんどありません。なぜだと思いますか?
「ミュージカル業界というのはとても“アメリカン”なんです。ミュージカルはとても技術を要する難しい芸術で、ほぼ一つのラインで代々、受け継がれてきていると言えます。アメリカのプロデューサーや観客は、優れた才能を持つアメリカ人がたくさんいるのだからと、あえて外に目を向けないのではないでしょうか」
――例えば『ライオンキング』のジュリー・テイモアは非常に斬新なスタイルを持っていましたが、彼女がブロードウェイに受け入れられたのは、アメリカ人だったからこそなのですね。
「新しいものを受け入れる余地は、ブロードウェイには常にあると思うんです。ただ、オスカー・ハマースタインが祖父、スティーヴン・ソンドハイムが父、その子がリン・マニュエル・ミランダといった具合に伝統が受け継がれている、小さな世界なんですよ」
――なるほど。『4 Stars』の選曲にお話を戻しますが、サラナさんが選んだ“新たなレパートリー”の中で特に成功したと思えた選曲は?
「私にとってはちょっとした驚きだったのですが、プロデューサーからは、日本のお客さんのほとんどは『Big River』という作品を知らないのではないかと聞きました。でも、このミュージカルのナンバー“Muddy Water”をラミンと優に歌ってもらったところ、手拍子が生まれ、予想以上に歓迎されているなと感じることが出来ました」
――2曲のナンバーを一つにまとめている箇所が何度かありましたが、あなたのアイディアですか?
「ええ、ストーリーを伝えるには“流れ”が重要です。『4 Stars』は4人のショーなので、こういう手法が有効だと思いました」
――映画『La La Land』のナンバーが登場しましたが、ひょっとして舞台化のご予定なのですか?
「いいえ(笑)。この映画のファンで、ぜひ取り上げたかったんです。」
――スターのコンサートではダンサーが“常に”踊っていることも珍しくありませんが、今回は“時折”の登場でしたね。
「(登場に)ふさわしい場面だけ登場してもらおうと思いました。オーケストラをピットではなく、ステージにあげている(ので踊るスペースが広くない)ということもあります。オーケストラがすぐ後ろにいることで、歌い手が舞台に出たとき、“よし!”と力強さを感じることができる。それはとても大事なことです」
――特に演出が楽しめたナンバーを一曲挙げるとしたら?
「ラミンが歌った“Cucurrucucu Paloma”です。スペインのペドロ・アルモドバル監督作『Talk To Her』の主題歌で、ずっと好きな曲でした。初めてラミンと会った時、彼に歌ってもらいたいなと思ったのです。彼のパフォーマンスはシンプルでありながら、チェロの旋律ともあいまってとても美しかった。ラミンはどんなスタイルでも歌いこなせる人なんです」
――4人のスター、それぞれについてのコメントをお願いします。まず、ラミンについて。
「とても“磁力”のある人です。共演者と深い関係性を作ろうとする姿勢がとても好きですね。単にナンバーを歌うのではなく、ストーリー・テリング(物語り)をする歌手です。新しいことにも積極的に挑むし、一緒に仕事をしやすい人です」
――シエラ・ボーゲスはいかがでしょう?
「彼女もストライク・ゾーンの広い、美しいソプラノです。遊び心があり、お客さんを前に自然にパフォーマンスが出来ます。共演の3人がやりやすいようにと気遣ってくれて、とても感謝しています。ビッグ・ハートの持ち主ですね」
――日本に初お目見えのシンシアは?
「稀有なアーティストで、今回参加してくれたのはラッキーでした。ステージのサイズに関わらず、舞台に登場して歌うスポットに来ると、曲にすっぽりと入り込む姿が素晴らしいです」
――そして城田優さんは?
「スペインの香りを含め、私に大いなるインスピレーションを与えてくれました。生まれながらの才能を持つ俳優で、ラミンのように歌の中でストーリーテリングをするタイプですね。率直で、とても“リアル”なアクターだと思います。オープンで、面白い一面もありますしね。はじめは彼のことを全く知らなかったので、どんな人物か知ってゆく過程を楽しみました。ぜひブロードウェイに連れていきたいですね。ハムレットもいいですし、ミュージカルならロマンティックな主人公をキャスティングしたいです」
『PHOTOGRAPH51』
日本での仕事は、アメリカでは得られない自由を感じることができます
――サラナさんはこの後、日本でストレート・プレイ『PHOTOGRAPH 51(フォトグラフ51)』を演出予定です。“世紀の発見”をしながら男性社会の中で認められなかった女性科学者の物語ですが、いわゆる“ガラスの天井”(性差別によって女性が社会的成功を拒まれる現象)がテーマでしょうか?
「そう思います。差別のターゲットになった人、差別をする側、双方の心象がシンプルすぎず、詩的に描かれていて、とても美しい作品だと思いました」
――科学用語が多いのですが、一般の観客も楽しめますか?
「大丈夫だと思いますよ。確かに科学用語は多いけれど、科学的事象を男女の性の営みに例えたりと詩的な比喩表現も多くて、ユニークな戯曲です」
――ストレート・プレイを日本語で演出するのは初めてでしょうか?
「はい。翻訳家の芦澤いずみさんと何か月も、一言ずつ翻訳を吟味するという貴重な体験をさせていただきました」
――板谷由夏さんはじめ、日本人キャストとはお会いになりましたか?
「数日前に初めて本読みを行いました。素晴らしいキャストで、これから稽古を一緒にやっていくのが楽しみです」
――プロフィールについてもうかがいたいのですが、サラナさんは幼いころから演劇界を目指していたのでしょうか?
「いえ、私はもともとシャイなタイプで、一人で作業の出来る作家になりたかったんです。それが、シアトルで非行少女の矯正プログラムに関わった時、自分は彼女たちの模範になれるほど強くない、むしろ自分のほうが子供っぽい。もっと自分自身を外に出して、物語を語らなければいけない、と思って、演劇に向き合うことにしました」
――前述のジュリー・テイモアは女性が演出家としてキャリアを築く困難を語っていましたが、サラナさんはいかがでしたか?
「同じです。『PHOTOGRAPH 51』でも描かれますが、社会は女性のリーダーに敵意をむき出しにしてきます。奇妙なことに、女性と言うだけで信頼されないし、追い出されそうになったこともしばしば。でも私は前述の美術デザイナーのような友人たちにずっと励まされ、その存在に支えられてきました」
――これから演出を目指す若い女性にアドバイスをするとしたら?
「私の世代より、今は状況がよくなったと思います。アドバイスをするなら、仕事はよく吟味すること。そして、信じた仕事のためには戦いぬきなさい、ということです」
――演出をするうえで、モットーはありますか?
「10代の頃、私は未来に対する漠然とした不安があって、それをスポーツなど“行動すること”で解消してきました。今生きていると感じること、ドキドキすることで、何かが始まる。今でも道を見失うと、そこに戻るようにしています。今は自分の生き方、時間の使い方を愛することが出来ています」
――『PHOTOGRAPH 51』の後にはどんなお仕事を予定していますか?
「いろいろプロジェクトがありますが、まだお話しできない段階です。日本でもぜひお仕事を続けていきたいですね。アメリカでは得られない自由を感じられます。過度な競争や差別がないし、皆さんからのリスペクトを感じながら、仕事に集中することができる。とてもいい環境です」
*公演情報*『PHOTOGRAPH 51(フォトグラフ51)』4月6~22日=東京芸術劇場シアターウェスト、4月25~26日=梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
*次頁で2013年版レポート&演出・ダニエル・カトナーインタビューを掲載しています。