謙虚さ、人の良さがにじみ出てくる、松山善三の初監督作品
「名もなく貧しく美しく」は、終戦後の混乱期、聾唖者、片山秋子とその家族の物語で、実話がもととなっています。主人公、片山秋子に高峰秀子、夫の道夫役に小林桂樹。夫の道夫も聾唖者ということで、夫婦の会話は手話です。のちに高峰秀子は自身のエッセイで、この映画での手話の習得に苦労したと語られていますが、当時複数の映画を並行して撮影していたなかで、これだけの手話を身につけ、完璧に演じることができるのはやはり高峰秀子の他にはおらず、そこに本物の女優の力を見せつけられます。この映画は高峰秀子の私生活における夫、松山善三の初監督作品。
松山氏の謙虚さ、あるいは人の良さがこの映画を通じてにじみ出てきます。
物語は聾唖者である夫婦の日常を軸に描かれています。
そこには聾唖者であるが故の苦労や困難が付きまといますが、「貧しくとも幸せ」という信念がこの夫婦の根底にはあり、人間本来の自然にわき起こる優しさや素朴さに、素直に感動できる作品です。
■名もなく貧しく美しく
監督:松山善三
主演:高峰秀子
DVD発売元:東宝