愛人と正妻、ふたりの女性像が対等に描かれた作品
戦後十数年、時代は高度成長の最中、女性の社会進出も自然なものとなり、女性の生き方そのものに焦点を当てた映画も多く出るようになりました。なかでも成瀬巳喜男監督の「妻として女として」は女性映画の決定版といわれています。
幸せな家族と、愛人。現代でもよくあるドラマ構成ですが、今と大きく違うのは、その愛人が正妻の公認の存在である、ということです。今だったら正妻と愛人の復讐劇となりそうですが、この物語のなかではふたりの女性像が対等に描かれています。
愛人の三保には高峰秀子、正妻の綾子には淡島千景、その夫、圭次郎には森雅之。森雅之と高峰秀子とは、後に名作と称された「浮雲」(1955年、監督:成瀬巳喜男)でも共演していて、当時のゴールデンカップルの再共演も見どころのひとつです。
ある日、圭次郎と三保は泊まりがけの旅先で圭次郎のかつての教え子に出くわします。うろたえる圭次郎を見た瞬間、三保は別れを決意します。長い付き合いであったにも関わらず、女はふとした瞬間、終わりを感じます。そしてまた、正妻、綾子は三保の産んだ子を我が子として育て上げます。
何気ない日常の中に、女でも気のつかない強さを見出す成瀬巳喜男監督の、鋭い洞察力に脱帽の作品です。
■妻として女として
監督:成瀬巳喜男
主演:高峰秀子