多彩な俳優たちの至芸が見もの、『南の島に雪が降る』
■監督久松静児
■主演
加東大介、伴淳三郎
■おすすめの理由
この映画は、昭和19年から終戦まで、ニューギニアの戦地で演劇活動を続けた俳優の加東大介が、自らの体験を綴った小説を映画化し、主演したものです。
加東大介といえば、『七人の侍』(54)や『用心棒』(61)といった黒澤明監督作品から喜劇「社長シリーズ」まで、シリアスとコメディーの両方で活躍した名優です。その人がこんな過酷な体験をしていたのかと思うと胸が痛みます。
すでに日本の敗色が濃厚となったこの時期、飢餓とマラリヤの恐怖の中で日々を送る兵士たちの唯一の慰めは、演芸分隊が催す芝居の数々だったのです。
タイトルは「南の島に雪を降らせる」という舞台「瞼の母」のクライマックスから取られていますが、紙の雪に感動して涙を流しながら死んでいく兵士を見た加東大介が「紙じゃねえか。こんなもんただの紙じゃねえか」と悔しそうに涙するシーンが切ないです。
この映画は、戦争の意味や、演劇の素晴らしさ、あるいは人間にとっての生きがいとは、などといろいろと考えさせてくれますが、それとは別に、多彩な俳優たちが見せる芝居が見ものです。
加東大介はもちろん、有島一郎、三木のり平、渥美清、伴淳三郎、森繁久彌、小林桂樹、西村晃、織田政雄、フランキー堺……、彼らの至芸を見るだけでも一見の価値があります。