人間の素晴らしさを撮った、大傑作とされるオリンピック映画
■監督市川崑
オリンピック映画において大傑作とされるのは、ナチ時代のベルリンオリンピックを撮った『民族の祭典』と、この『東京オリンピック』の二本でしょう。『民族の祭典』が、整然と、身体の躍動と美を撮ったのに対し、『東京オリンピック』は平和の祭典としてのオリンピックの意義、そこに集う戦車や観客たち、つまり人間そのものの素晴らしさや面白さ、美しさを撮ったものだと言えます。
オープニングは、画面いっぱいの太陽から始まります。
破壊された日本が立ち直り、オリンピックを開催する所まできた。
その勢いと喜び、これからの希望を託されたような、見事なオープニング。
そして競技が始まる前、国内の聖火リレーは広島の原爆ドームから。
戦争からの復興としての「東京オリンピック」の意義が、映像だけでしっかりと伝わってきます。
続いて開会式、様々な競技があり、閉会式へと続くのですが、この映画が単なるニュース映像
と違い、まさしく「映画」であるのは、やはり人間そのものを撮った、ということに尽きるでしょう。
雨で濡れたグラウンドの水を一生懸命大きなスポンジ吸い取るスタッフ、マラソンの沿道で、
小さい子を連れた割烹着の女性たち、役員や記録員たちの真剣な顔つき。選手を見る目も決して偏りなく、マイナースポーツもしっかり撮っています。
例えば競歩、最初の選手がテープを手で引きちぎってゴールする様は、この競技の「我慢」がどれだけ苛烈かを伝えてくれるのと同時に、観客に笑いを提供してくれています。
そうして「人間」を撮り続けた最後を締めくくるのは、最高のラストである閉会式。
整然とした式をやろうとして誘導に失敗した結果だったらしいのですが、いろんな国のいろんな選手が、みんな渾然一体となって、本当に楽しそうにしているこのシーンほど、平和のすばらしさを伝えてくれるものはないでしょう。
これはただの記録映像などではなく、ほんとうに素晴らしい、人間賛歌の「映画」なのです。