歌によってその世界観を表現することができるアーティスト
■アーティスト名美空ひばり
■おすすめの作品
昭和を代表する歌姫といえばこの人でしょう。
美空ひばりさんが他界されたのは私が小学生のときでしたが、
年齢を重ねるにつれてひばりさんが賞賛された理由が分かるようになりました。
ひばりさんはあまりにも歌が上手かったため、子供の頃は「子供らしさがない」と受け入れられないこともあったようです。「素人のど自慢」で鐘が鳴らなかったのは有名なエピソードですが、
子供で歌が上手なことが評価されないのは今の時代では考えにくいことです。
私にとって衝撃的だったのは、他界されて20年が経ったころに放送されたひばりさんの特集番組でした。そのとき、最後のシングル「川の流れのように」を聴いてあることに気づいたのです。
「川の流れのように」のサビの部分は、ロマンティックなメロディなので盛り上げて歌いやすいと思います。しかし、よく聞いてみるとひばりさんは盛り上げずに抑えていたのです。
サビに登場する「ゆるやかに」「黄昏」「おだやかに」「せせらぎ」という歌詞を表現して
歌われていたんですね。逆に、サビに入るBメロは少し盛り上げ気味に歌っています。
ひばりさんが天才と言われていたのは、歌によってその世界観を表現することができる、しかも聴いている人にそれが伝わるからだったのか、ということを肌で感じました。
「この人は天才だ!」と思いました。もはや、歌手としてのレベルを越えています。
彼女は表現者、アーティストだったんです。
この曲をいろいろな歌手の方がカバーされたのを聴くと、私には良いと思える人とそう思えない人がいたのです。このとき、その理由に初めて気づきました。
それからひばりさんのいろいろな曲を聴いてみると、どの曲もひばりさんなりの解釈が感じ取れます。お酒を飲まなくても「悲しい酒」はその気になって気持ちが沈んでしまいそうですし、
「愛燦燦」や「みだれ髪」を聴くと涙が出てきてしまいそうです。
病魔に冒された晩年は限りある時間を精一杯生き抜き、「川の流れのように」という名曲を残して去っていかれたひばりさん。あれほどの天才は今後もなかなか現れないかもしれません。