パッチワーク・キルト/パッチワーク・キルトの歴史

パッチワークの歴史とは……パッチワークキルトはアメリカ生まれ?

アメリカ生まれと思われがちなパッチワークキルトですが、その歴史やルーツは実際にはそのずっと以前、メイフラワー号がアメリカに到着する前のイギリス、東インド会社、そして布の宝庫であるインドや中国にまでたどり着きます。

執筆者:市川 直美

パッチワークの歴史、ルーツは英国貴婦人のステイタスだった?

パッチワークの歴史

「貴婦人のキルト」 1680-1700年イングランド。大変貴重な布を使ってパッチワークやアップリケした見事な作品。大変な時間を掛けて制作されたと思われる。188×162.5cm (Ron  Simpson所有)

パッチワークキルトはアメリカ生まれの手芸と思っている方が多いと思いますが、実際には新大陸にヨーロッパから人々が入植するずっと前からあったものです。布が存在する場所には必ず端切れを生かす智恵があるわけで、遥か昔から布の産地だったインドや中国にはごく自然な形でパッチワークが作られていました(次元が違うかもしれませんが、お釈迦様が纏っていた糞掃衣と呼ばれる衣もぼろきれを継ぎ合わせたものでした)。

現在、私たちが目にするパッチワークのスタイルは英国が始まりでした。1600年にイギリスが東インド会社を設立しアジアから美しい布がヨーロッパに入るようになるとそれらを競って求めたのは富裕な人々。主に服やインテリアに生かしましたが、誰も持っていないような珍しい布を何種類も集めてパッチワークにしたのが貴婦人たち。

当時、富裕な夫人たちが有り余る時間を過ごすための手遊びとして刺繍などの手芸をたしなんでしましたが、パッチワークは17世紀の最先端の流行として上流の女性の間に広まりました。出来上がった作を屋敷に飾っては客人に見せることがステイタスだったわけです。

これらのパッチワークは実用とは無縁の贅沢品でしたから、現在のキルトのように綿をはさんだキルティングなどされておらずごく薄いものでした。もちろん現存は難しく多くは残っていませんが、貴族の館の屋根裏に眠っていたり家族が大切に保管していた特別の品が残されていることがあります。
 

そしてアメリカでパッチワークキルトが花開く

アメリカを新天地としてピューリタンがメイフラワー号でイギリスを後にしたのは1620年。その後イギリスはじめヨーロッパから大量の人々がアメリカに渡り1776年の建国を迎えるわけですが、最初の人々が入植した東部、ニューイングランド地方と呼ばれる一帯では開墾が一段落し人々の暮らしが落ち着いてくると1700年ごろから布地を所有できる富裕層がパッチワークキルトを作るようになります。

1700年代の終わりから1800年初めごろにはニューイングランドの中流家庭の女性たちの一部がかつてイギリスの貴婦人が作っていたようなぜいたくなパッチワークを作り始めますが現在の私たちが認識するようなキルトが生まれるのはそのすぐ後。
「軍服のパッチワーク」1865-75年頃、152.4×152.4cm  19世紀にキルト作りは療養中の負傷兵の心を癒す精神療法として取り入れられた。中心の八角形を囲むたくさんの四角いピースの中にはマルタ十字、星、勲章、王冠などが描かれている。恐らくウェールズ連隊の兵士が制作。(Ron Simpson所有)

「軍服のパッチワーク」1865-75年頃、152.4×152.4cm 19世紀にキルト作りは療養中の負傷兵の心を癒す精神療法として取り入れられた。中心の八角形を囲むたくさんの四角いピースの中にはマルタ十字、星、勲章、王冠などが描かれている。恐らくウェールズ連隊の兵士が制作。(Ron Simpson所有)

1820年代産業革命で紡績とプリント工場がニューイングランドで稼働し可愛らしいプリント布の「キャリコ」が生産され、気軽に買えるようになると実用と装飾を兼ねたパッチワークキルトが大流行。英国スタイルを踏襲しながらもアメリカ独自のパターンや合理的なデザイン構成が生まれ、ここから全米各地に広がり、1850年ごろまでにはアメリカ全土で全盛期を迎えることになります。

キルトの歴史をひもとくとそれは地球上の人々の動きに沿いながら広がり発展していくことがわかります。今回はキルトがアメリカが誕生する以前から存在していたこと、そしてアメリカ初期でどんな風に広まっていったかをお話しました。

画像提供:パッチワーク通信

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